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安達太良スキー行
小沢 正美

山行日 1962年2月25日
メンバー (L)小沢、金子、高杉

 月光に光る残雪が辺り一面を覆うようになると温泉の香りと湯煙に迎えられ岳温泉に着く。午前3時、同乗のスキーヤーと別れ通い慣れたスキー場への道を急ぐ。広大なスキー場は青白に光り凍りついたゲレンデをリフト沿いに登る。頭上にぶら下がった赤サビのリフトは寒気を更に増す。雪面の白と林の黒い影の織りなす強い白と黒のコントラストが時折り吹き上がる雪片が灰色に変えては肌を差す寒気が襲う。第二リフトの終わり、急斜面のラッセルに一汗流しトップを換わる。
 ひと頑張りでヒュッテ(仮称第二リフトの終点に最近でき、現在建設中)に着く。早速ストーブに火を入れ、熱いミルクで暖を取れば眠気に襲われる。
 どれくらい経ったか?戸を開ける激しい音と共に3、4人の人声にハッとして目が覚めた。陽は既に高く一面の銀世界に変わっていた。7時、しまったとばかりにヒュッテを飛び出し安達太良へと急ぐ。昨日の降雪で雪質はこの上もないコンデション。この上シールが気持ちよく効く。地蔵岩を巻き烏川に下って勢至平への登りは南斜面のため一旦溶けた雪が凍ってガリガリの斜面を一苦労、やっと旧道との分岐に登り着いた頃にはアゴが出かかっていた。同行の金子、高杉など途中スキーを脱ぐ始末。20分の休憩にシールの点検をし、強風に雪片の舞う勢至平へと入る。遮るものの何もないこの雪原ではまともに雪片が顔を刺す。まつ毛は真白に凍り、まぶたが凍りつく。約40分の平地歩行で強風下の勢至平を脱し、湯川渓谷を右に大きく急斜面をトラバースし、突き出した鼻を大きく回り込めば粉雪に埋もれたくろがね小屋はすぐ鼻の先、一瞬ファイトがグッと湧く。小屋目掛けて一気に滑り込む。
 I山岳会のカマボコ、ウィンパーと色とりどりの天幕が張られ春の合宿が行われていた。小屋はこれらの人々でごった返し腰を下ろす所さえない。早々に昼食を済まし11時小屋を出る。ガス深く風が強い。手前の沢筋に入り稜線を右に篭山の肩に出、烏川の源頭を渡って安達太良頂上直下の岩石の下にツェルト併用の雪穴を掘りスキーをデポ、アイゼンに履き替え、頂上目掛け一直線に岩石の入り混じった雪面に変わり、ラッセルを強いられ強風下の頂上に出る。山頂付近の稜線は殆ど積雪は見られず大きなエビのしっぽが出ていた。乳白色のガスに八方を閉ざされ何ら眺望を望めず。早々に下山。氷雪訓練のための堅雪の斜面を探すも新雪後とて止む無くデポ地に戻り若干の反復練習をした。
 15時30分、撤収も早々に今は完全に晴れ上がったコバルトの空に白銀の稜線が輝く。この大斜面に待望の滑降が始まる。烏川源頭を烏川谷に入って篭山の肩に回り込めば雄大な粉雪の斜面が待っていた。勢至平目がけ三人そろって思い切りすっ飛ぶ。やがて落葉松の樹間を縫って雑木の小枝を潜れば旧道との分岐点。大滑降も一応終わってガリガリアイスバーンの急な下りをデラで降り、烏川を渡って樹間を飛ばし第二リフトの下を潜れば夕暮れのゲレンデに飛び込む。途端に派手な転倒だ。スキーを履いていたのでは最終バスに間に合わずとスキーを担いでゲレンデを駆け下り、何とかバスに間に合ってシールとアイゼンの安達太良スキーを終わった。

〈コースターム〉
岳温泉(3:00) → ヒュッテ(4:25~7:00) → 旧道分岐(8:10~8:30) → くろがね小屋(9:50~11:00) → デポ地(12:20~13:00) → 頂上(13:10~13:15) → デポ地(13:20~15:30) → 岳温泉(17:30)


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