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八ヶ岳地獄谷権現沢 右俣滑滝ルンゼ
山越 勲

山行日 1962年5月27日~28日
メンバー 山越

5月27日
 15時30分の定時松本行きに乗車。小海線清里から清泉寮に向かう。どこかの会社のハイキングの連中と一緒になり、ライト節約とばかり清泉寮まで付き合う。そこからはいよいよ私一人だ。寂しくやっぱり誰か誘えばよかったなあと後悔する。地獄谷河原に降りる少し手前に炭焼き窯があったので潜り込んでしまう。荷物の関係からツェルトを持ってこないのでウトウトしているうちに薄っすらと明けてきた。
5月28日
 河原に出て水の流れている下の岩屋で朝食、権現沢二俣まで単調な河原歩きだ。天候は申し分ないが前線が近づいているので明日までは持つまい。右俣に入るとすぐ最初の滝が現われる。正面を直登、落口から雪渓になる。キックステップで少し登ると右岸より正面ルンゼが出合う。沢は右に緩く曲がって右岸は頭上を圧する大岩壁だ。大岩壁を回り込んだ所に大きな滝がかかっており雪渓は2mばかり手前で切れ、クレバスになっている。右岸は岩壁、左岸はハング気味の雪壁で手が出ない。少し戻って左岸の脆い岩を登り、ハングした雪壁の上を回り込んで落口へボロボロの岩場をトラバースする。真下のクレバスが薄気味悪い。ここから3mくらいに両岸が狭まって、すぐ滝が姿を現す。左岸中段の外傾テラスに出てそこから落口への2mばかりが悪い。ハーケンを打ってホールドにする。ゴルジュを出ると沢筋は明るく開ける。急な雪渓を嫌って左岸の草地を登る。雪渓を離れると風がないので暑い。しかし、高曇りで直射日光にやられないのでまだましかも知れない。草地が終わる所でアイゼンを付ける。しばらくで滑滝ルンゼ、三ツ滝ルンゼの分岐になる。滑滝ルンゼは出合の滝が登れないので一旦、三ツ滝ルンゼに入り左岸の草付ガリーを登って中間リッジよりルンゼ内に下りる。ルンゼは両岸狭まり所々雪壁になっている。一歩一歩スタンスを作って登る。中ほどで左上方より落石があり肝を冷やしたが幸い事なきを得た。ここから詰めの二俣まで四つほど滝が現われる。いずれも落口にチョックストンを持ち、直登や高捲きは不可能。左右の側壁をジワリジワリと登るのだが、無雪期は相当な悪場と思われる。私はサブとアンザイレン、雪渓を利して滝の中ほどより取り付いたが、いずれもアイゼンの爪1本に頼る登攀だった。傾斜も急でスリップは天国に直結する。最後の二俣は左を取り、滝を一つ越えると急に平坦な雪田となる。真直に終わりまで詰め這松を漕ぐと権現岳と旭岳のコルに出た。遠く白銀の衣を纏ったアルプスを望みながら権現岳に向かう。帰路は三ツ頭より甲斐小泉に降りた。

〈コースタイム〉
5/27 清里駅(21:45) → ビバーク地(23:00)
5/28 ビバーク地(4:10) → 権現沢出合(5:30) → 二俣(5:40) → 正面ルンゼ出合(5:55) → 滑滝ルンゼ出合(7:20) → 稜線(9:50~10:10) → 権現岳(10:20) → 三ツ頭(10:55) → 甲斐小泉駅(13:00)

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