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穂高・岳沢合宿
小沢 正美

山行日 1962年4月29日~5月6日
メンバー 先発(L)小沢、山本(敬)、中山、花岡、足立、森岡、後発(L)山越、原口、小島(作)、保坂、内藤

1.計画及び準備概況
 昭和37年度行事計画の一つとして春山合宿は涸沢合宿として、岡野リーダーを中心に着々とその準備は進められていたが、4月に入って岡野リーダーが不参加となったが、その参加人員は12名の多さに達していた。
 その後、机上検討が繰り返され涸沢の混雑を避けるため計画を岳沢に変更し、準備会に於いて先、後発隊メンバー各自の係が決定され速やかにその準備に入った。
2.合宿概況
 合宿参加者の大半が新人であるところから立案当初の定着放射状登攀合宿を新人を対象とする雪上訓練に終始した。
 イ.キックステップによる登下降
 ロ.アイゼンの着脱及び歩行訓練
 ハ.滑落停止訓練
 ニ.岩登りの基礎とアップザイレン練習
3.行動記録
4月28日
 新宿17時発第二アルプスにて山本、中山新宿を発つ。次いで22時35分準急第二穂高で先発隊の花岡、足立、森岡、小沢の4名は山越、保坂、小島、内藤等多数の見送りの中を発つ。

4月29日 曇のち風雪、風強し
 8時上高地着、黒い雲が一面を覆い強い西風が吹きまくり気温が急激に下がる。
 気圧の谷の通過らしい。風を避けて再パッキング、岳沢に向かう。森林帯に入って小休止、この時松本にスコップを忘れたことに気づき、山本連絡のため上高地に下る。他は先へと急ぐ。中明神沢を渡り森林帯を抜け岳沢に入れば、岳川谷は完全にガスに閉ざされ新雪の沢筋は風雪が舞う。雪原を1ピッチ天狗沢出合の台地に11時着、直ちにBC設営、14時~15時30分までアイゼンの着脱訓練を繰り返す。アイゼンが吸い付き、風雪更に激しさを増す。

4月30日 快晴
 6時天幕を出る。前穂より奥穂へと連なる吊尾根が屏風のように立ちはだかり西穂より奥穂への稜線はくっきりと白銀に輝いている。
 アイゼンの着脱訓練後、直線登下降、ジグザグ歩行、滑落停止等とクラストの急斜面に氷雪訓練が続く。10時、一足遅れて入山の原口が上がってきた。総勢7名、早い昼食は賑やかだ。午後の天狗沢はザクザクと雪が柔らかくコルまで一直線ステップがよく効く。
 小休止、裏銀座の山々、笠ヶ岳が美しい。下降途中でキックステップによるジグザグの登下降の訓練を繰り返し、全員グロッキーでBCに戻る。特に足立の疲労が酷いようだ、腹痛を訴えている。どうも雪の食い過ぎらしい。他は皆元気だ、今夜も冷える明日も快晴だろう。

5月1日 曇
 5時BCを出る、アイゼンの音が気持ちよい。一気に奥明神沢を詰め三本槍の頭へ出、稜線伝いに前穂の頂上に立つ。吊尾根を経て奥穂、北穂、槍へと穂高の山々が連なり、更には北アの山々が幾重にも重なり眼下大正池も、遠く乗鞍、御岳も美しい。小休止の後、吊尾根を下って奥穂へ、ここからのジャンダルムは圧巻だ。更に白出のコル~ザイテンを涸沢へ一気に下って横尾、徳沢を回ってBCに帰る。これで新人にも穂高の概念がいくらかでも掴めたのではなかろうか。
 夕食後、今日のいろんな話に花が咲く。天幕暮らしの楽しい一時だ。が、天幕撤収移動の命に、ミゾレ降る夜間の撤収ー移動ー設営の訓練を行った。他パーティの天幕は灯も消え静かだ。ガスが深い。

5月2日 晴
 今日は天狗沢より西穂へ縦走だ。6時30分BCを出る。コル目指し天狗沢を詰め、天狗岩を鎖を伝って登り蒲田川側の雪面をトラバース稜線に出て2、3のピークを越える。折から上がって来た後発隊と稜線よりコールを交わす。間の沢コルより間の沢を下って山越以下4名を出迎えBCへ。これで全員11名が揃ったわけだ。昼食後、天狗岩より間の沢と天狗沢を分ける尾根でアップザイレンの練習をし夕刻BCに戻る。
 一時に4名も増え天幕は大賑わいだ。夕食後、大鍋を抱えてオールメンバーの自己紹介を行い和やかな雰囲気の中に夜は更けていった。

5月3日 晴のち曇
 後発隊とは別行動、間の沢の岩場で昨日に続いてアップザイレンの練習をする。午後はちょっとした岩場に取付き岩登りの練習、折から間の沢登行中の後発隊のコールがある。ガスが酷くなってきた。長続きした晴天も下り坂らしい。薄暗くなる頃、グリセード下降でBCに戻る。夜更けて雨となる。

5月4日 雨のち曇
 後々の行動については一切山越リーダーに頼み、山本、森岡、小沢は雨の中を上高地に下る。

〈コースタイム〉
4/29 上高地(8:00~8:20) → 岳沢幕営地(11:00)
4/30 BC(6:00) → 氷雪訓練(10:00) → BC(昼食)(11:00) → 天狗のコル(13:00) → 下降(13:15) → BC着(16:00)
5/1 BC(5:00) → 奥明神沢入口(5:50~6:50) → 左俣分岐(7:40) → 前穂頂上(8:00) → 奥穂(11:20~12:05) → 白出のコル(12:10) → 涸沢(12:40~13:35) → 横尾谷出合(13:45) → 横尾(14:20) → 徳沢(15:35) → 明神池(16:05) → BC着(18:30)
5/2 BC発(6:30) → 天狗のコル(8:50) → 間の沢コル(9:50) → BC(11:20~13:00) → 間の沢岩場(14:00~18:30) → BC着(18:50)
5/3 BC発(8:30) → 岩場(8:50) → 間の沢コル(9:20) → 下降(18:00) → BC着(18:30)

後発隊
山越 勲

5月1日
 22:35準急第二穂高で後発隊の山越、保坂、内藤、小島(作)の4名新宿を発つ。

5月2日 晴
 上高地でバスを下車。炎天下を岳沢に向かう。1ピッチで早くも汗が流れる。ゆっくりと登って森林帯より岳沢のガレに出る。西穂より前穂に連なる稜線がくっきりと青い空に浮かび出て登行欲をそそる。更にガレを登って天狗沢出合のBCに到着。
 折から午前中の行動を終えた小沢リーダー以下の出迎えを受ける。
 昼食後、間の沢でキックステップの練習をする。連日の好天で雪が柔らかく確実なステップが切れる。夕刻上部で滑落停止の練習をしBCに戻る。

5月3日 晴のち曇
 今日中に下山しなければならない原口が、午前中の練習を指導してくれる。岳沢本流の左岸でキックステップの練習をするが、雪が柔らかいので天狗沢に移る。一直線にコルへ詰め休憩もそこそこに下降。ジグザグにステップを切りながらBCに戻る。
 午後は下山する原口を残して間の沢に向かう。途中岩登り練習中の先発隊にコールを送りつつ間の岳へ出る。間の岳の登りが悪そうなので天狗岩から天狗のコルを経て畳岩の頭まで縦走。再び天狗のコルまで戻って夕暮れの天狗沢を下降する。

5月4日 雨一時曇
 今日は西穂より前穂に縦走の予定なので朝早く起きると生憎と雨だ。残念だが延期する。8:30小降りになったところで小沢リーダー以下2名が下山。どうも御苦労さん。止みそうなので準備を整えていると足立が家事の都合を理由に下山を願い出る。事前に願出ていないので弱ったが一応彼を信頼して下らせる。そうこうしているうちに雨が止んだので出発。ここ2、3日めっきり増えたテントから一斉に他パーティが出発する。西穂高沢を登る。登るに従ってガスが深く水気を多量に含んでいるので濡れて気分が悪い。
 深いガスの中を左へ左へルートを取り、独標とのコルに出る。稜線はガスが渦巻き、明らかに天候は下り坂だ。西穂を越したコルより西穂沢の支沢を下る。途中、中山が眼鏡を落とし取りに行く。待つ間遂に大粒の雨がポツリポツリと降ってきた。本降りなのでBCに下り午後の行動は中止とする。

5月5日 雨のち曇り、のち晴
 一晩中降った雨は朝になっても止まず、テント浸水により不快な気分だ。今日は停滞にする。午後になると急に止んで時折日が射すようになる。BCを約50m下方に移動、濡ものを乾かしながら小さいテントを使って設営、撤収の練習をする。夕方になると気温が下がり明日は晴れそうだ。

5月6日 快晴
 久し振りの快晴が最終日とは全くついてない。今日の行程は奥明神沢より前穂だ。奥明神沢は上部がかなり急だが、皆連日の練習ですっかりバランスが良くなっているのでスリップの心配もない。前穂頂上から360度の展望が楽しめた。内藤が今日中帰京しなければならないので往路を引き返す。BCに着いて直ちに撤収下山。

後記
 後発隊は練習時間の制約からキックステップとピッケルによる滑落停止の練習に終始したが、最も大きな成果はやはり共同生活の会得ではなかったろうか。

〈コースタイム〉
5/2 上高地(8:50) → BC(22:45) → 雪上訓練(13:00) → BC(17:10)
5/3 BC(8:30) → 天狗のコル(10:45) → BC(11:45~13:00) → 間の岳のコル(15:00~15:05) → 天狗のコル(15:50~16:00) → 畳岩の頭(16:30) → 天狗のコル(17:00) → BC18:15)
5/4 BC(9:00) → 独標のコル(11:20~11:30) → 西穂(11:50) → BC(13:30)
5/6 BC(5:00) → 前穂(7:05~7:25) → BC(8:40~10:00) → 上高地(11:40)

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