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一ノ倉沢南稜登
三村 重義

山行日 1962年8月30日~31日
メンバー 三村

8月30日(木) 雨のち曇
 土合を3時頃発つ。雨が降っているのと、重いキスリングとでロープウェイの待合所で休む。20分くらい休んでも雨は降ってくるので堪りかねて飛び出す。全身濡れネズミになって天幕を張る(4時30分)。濡れた着物を絞ってまた着る。
 白毛門辺りが明るくなってきたので天幕を出発し一ノ倉沢へと向かう。ケルンの墓標に頭を垂れてただ歩くのみ。
 ヒョングリの滝に出た。これは左側を高捲いて登り、草付きを本谷に降りる。滝沢の下部まで雪渓が詰まっていた。天気は良くなく登ろうとしている南稜の所から上はガスっている。
 中央稜末端を登ってバンドに着く。これより烏帽子スラブをトラバースし、すぐ左上の南稜テラスに着く(7時)。時間も大分あるし人も少ない。詩文としてはこれからが楽しみでならない。
 一旦、本谷バンドまで下り2ルンゼを15mほど登ってプリズムでルートを確認する。
 これより1時間後、自分一人の気楽な登攀が始まった。南稜テラスからリッジを6mくらい登り。奥壁側に3mほどトラバースするとチムニーになる。高さは5m前後だ。これは残置ハーケンにビナを通して登る。やや逆層気味だったように思う。上へ行くに従ってフリクションが良く効く。少し前まで降っていた雨も止み、身も心も燃ゆる想いでフェースに取付く。思ったより悪くなくカンテを気持ちよく高度を稼ぐ。フェースを登り切ると6ルンゼ左俣の洞穴が見えてくる。ここで一本立てる。
 3ルンゼ、中央奥壁、2ルンゼ、少し顔を出すと滝沢とよく見える。
 完登することにしていたのでリッジ通しに登る。下部5mくらい、逆層のスラブには手こずった。小さなホールドに力をかけスタンスするといった所で緊張を余儀なくされた。南稜完登のポイントはこのスラブ5mくらいだと思われる。4m登った所にリスがあり、ピトン1本を打ち何とかリッジに馬乗りになった。30m登ると烏帽子岩の基部に着き、ここは水が流れていてよい憩い場所だった。ここまでの時間が10時半少し過ぎなので相当速いピッチだ。気持ち悪い草付きを落石に注意しながら一ノ倉尾根に向かう。
 一ノ倉岳頂上には墓標が二基建っている。ここに長居は無用と肩の小屋へ向かう。面白き小暮さんの話を聞くため足を速める。12時少し過ぎには小屋へ着いた。茶を飲みながら谷川の話を聞こうと思ったら『子供達の遊び場のことは知らない』といつもの調子で自分をからかう。
 帰りは西黒尾根から巌剛新道を下る。マチガ沢の幕営地に着き明日の準備をする。

8月31日(金)
 夜半より雨が降り、南稜を登った自分には最早用なきため天幕をたたんで土合へ向かう。

〈コースタイム〉
土合駅(3:00) → マチガ沢出合(3:55~4:30) → 南稜テラス(7:00~8:15) → 烏帽子岩基部(10:30~10:40) → 一ノ倉岳(11:25) → 肩の小屋(12:10~13:00) → マチガ沢天幕場(14:30)


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