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涸沢の思い出
山本 政雄

メンバー 山本、横田、川口

 7月15日午前4時過ぎ目を覚ました。辺り一面朝霧が立ち込めセーターを着ても寒いくらいだ。梓川の清流は手がちぎれそうな冷たさである。
 私達三人が朝食を終わり、屏風岩直下のテントを後にしたのは6時だった。踊る心を抑えながらもどうしても足早になる。
 ヒュッテに7時前に着いた。素晴らしい眺めだ。左から鋸のような前穂北尾根、奥穂の黒い岩壁へ純白の雪渓が見事に突き上げている。涸沢岳から涸沢槍のピーク、コルを経てぐっと北穂が聳え、そのいずれもぎっしりと雪を詰めて朝日に輝きながらひしめき合っている。
 私達はザイテンへ道をとる。前穂の急な雪渓を登っているパーティが小さく見える。時折あっちの峰こっちの谷から呼声がこだまする。岩登りの仲間達に声を掛けたりしながら10時前穂高小屋へ入った。
 遠くの方は霞んで展望があまり利かない。飛騨側から見る見るうちにガスが巻いてきたのでゆっくりも出来ず奥穂へと向かう。急な岩場もあり落石せぬよう注意しながら登る。頂上には大きなケルンが積まれ、小祠が祀ってある。
 西穂、前穂の縦走路が分かれているがガスのためさっぱり見えない。
 遂に小雨になってしまったので、涸沢岳を断念し1時前、小屋を後にした。グリセード、滑落停止等の練習をしながらゆっくり下る。北穂、涸沢岳の方はすっぽりガスを被り今朝とは正反対の暗い不気味な表情である。時たまガランガランと音を立てる落石に肝を冷やした。
 山の天気の厳しさに今更驚きながら3時過ぎ無事テントへ着いた。
 屏風岩もガスの中だ。今日の楽しかった思い出を話しながら8時シュラフへ潜った。
 静かだ...。谷のせせらぎの中に溶け込んでいるようだ。
 明日でいよいよお別れである...。


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