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谷川岳幽ノ沢右俣
小島 作蔵

山行日 1962年7月22日
メンバー (L)山越、小島、三村、花岡

 昨夜の雨も止んで青空が顔を出している。土合ハウスを5時に出発。ぬかるんだ歩きにくい道を幽ノ沢出合へと向かう。マチガ沢出合、更に半時間で頭上を圧する大岩壁の一ノ倉沢出合、またしばらくで幽ノ沢出合に到着した。ここで朝食にする。左岸の茂みの岩の遭難碑が突然目に入り嫌な気分になる。
 出合からは右岸に沿い小さな滝を越えて行く。沢は右に曲がり、そこに二段30mほどの滝が現れる。一応アンザイレン(K-H-Yの順)し直登する。ザイルを巻いていると「オーイ」という声。見ると先の方に三村君がいる。彼とここで一緒になり四人のパーティで登ることにする。
 沢はやや開け、幽ノ沢奥壁が望見される。やがて二俣に着く。右俣に入るとすぐその基部を成すカールボーデンに出る。傾斜約30度くらいの乾いた順層のスラブは快い登行を味わえる。名前からくる感じとはまるで逆の明るい感じを与える広大なスラブである。奥壁を仰げば右壁はオーバーハングの逆層、左壁は垂直に近いスラブだ。その間に空から下りている樋のような一本のリンネがある。このリンネ以外ルートは見出せない。リンネに入るため左のスラブを登る。途中からアンザイレン(K-M-H-Yの順)し、トラバースしてリンネに入った。ホールド、スタンスが細かく緊張させられた。
 リンネに入って間もなく悪場の滝に出た。右壁はハングしており、左手も垂壁の逆層である。しかし、残置ハーケンが2~3あるので何とかやってみようと取付く。話に聞く通りなるほど悪い。残置ハーケンに沿ってアブミをフルに活用し滝の落口より1mほどの地点まで登ったが、上がハングしておりどうしても越せない。左に少しトラバースした。一本の残置ハーケンが目に入る。身体を伸ばしてみたがもう少しのところで手が届かない。下で心配そうに見上げている山越君の「大丈夫か」と言うのが聞こえた。しばらくは片手だけが岩肌をせわしなく動く。見下ろすと足下のカールボーデンがひどく恐怖をそそる。アブミに乗せている足が震え出す。また山越君の「駄目だったら降りてこい」という声が聞こえた。思わず目の上のハーケンに目をやり思い切り跳ぶようにして身体を伸ばした。右手ががっちりハーケンを握った。これにアブミをセットして落口に立つことができた。ホッと一息ついて次に登ってくるM、H,Yを確保、全員無事に落口に立った。
 しかし、未だ登りは続く。途中でトップをYに代わってもらい、右に左に滝を越えて行くと逆層の大きく抉れた滝に出る。岩は濡れておりリスもなく、トップのYが大変てこずっているようだ。やがてYの姿が岩陰に隠れる。しばらくすると「ヨシ、登ッテコイ」と言う声。MとHが登った。ラストの俺の番だ。岩肌が滑りザイルにぶら下がるようにして上に出た。この滝も最初の滝に劣らず悪い。ここからは草付きだ。今までの岩登りで体力をかなり消耗してしまったので、草付きは非常に堪える。やがて稜線に出、西陽を浴びながら一ノ倉岳、谷川岳を経て西黒尾根をふらふらした足取りで下る。日もとっぷり暮れた頃土合に到着した。


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