山行日 1962年10月10日
メンバー 井上
夜の明けきらぬ水上駅へ降りると冷たい風が身に染みる。谷川温泉まではハイヤーを依頼する。ひっそりとした温泉部落を抜けると真暗な雑木林の道だ。電灯を頼りに行くが濡草に下半身がびっしょりになる。
谷川本流の牛首に着いたのが25分後、ここで小休とする。両岸が狭まり本流は瀞となり透き通った水の美しさは何とも言えない。ザックを背に歩き始めた頃、東の空がようやく明け出してきた。コースは終始左岸を行くが、岩の間を縫ったり倒木を潜ったり河原を歩いたり変化がある。前方に幕岩の姿が現れ山に来た気分は満点だ。
右に開けた所を少々登れば二俣のキャンプサイトだ。幾張りかの天幕を右に見送りオジカ沢に入った。昨夜の雨でかなり増水していたが石から石へと飛んで出合に着く。右がヒツゴー沢、左がオジカ沢だ。右沢を見送り左の沢に入って間もなく右側の樹林帯に細い道が中ゴー尾根へと突き上げている。道標がないので一寸見落とし易いところだ。攀じ登るように猛烈な急登行が始まる。高度は見る見る上がり幕岩が次第に背を並べるようになる。この辺りは尾根が細いので木々の間から景観を望むことができ、左右の沢も眺められる。きつい登りだが荷が軽いので快調だ。7:20第一ピークに着くと朝の太陽が眩しいほどに射してくる。ここで朝食とする。休んでいると寒くてたまらない。白い急流のオジカ沢が印象的だ。
8時出発、やや下ると再び登りとなり展望が利かなくなる。左に樹林が開けた所で稜線を見ながら一息入れた。休んでいると二人の登山者がやってきた。彼等が先頭に立ち登り始める。森林限界を脱出すると周囲が開けて展望良好だ。オジカ沢の頭がすぐそこだ。右の谷川岳はここから見ると馬の背のように雄大だ。後を振り返れば赤城山と白煙の浅間山が印象的だ。秋の日差しを体いっぱいに浴びながら秋晴れの尾根歩きは誠に快適。大岩の上で休憩してスケッチをして青空を仰ぐのみ。そよ風に熊笹の斜面が波打っているのに興味ある。ヒツゴー沢を詰めるパーティのコールに応えながら歩き出し、稜線へ最後の登りは熊笹の斜面だ。滑るのに注意しながら国境稜線に立った。風が気持ち良いほど頬をなでる。万太郎谷の斜面に奇岩があるのでザックを置き降りていく。突き出た岩は斧で割ったように真っ二つになっており何か伝説でもありそうな岩だ。しばらく眺めて満喫した後、稜線を谷川岳へと向かった。20分くらいで頂上肩の広場だ。一端には小屋が親子のように並んで建っており、小さい方が最近建てられたものだ。三角点までは5分くらい。稜線より万太郎谷側へのなだらかな斜面に対し、東面の岩場は急峻に落ち対照的だ。
下山路は歩き慣れた天神尾根だ。走り出したら止まらない下り坂、いわお新道への分岐点まで25分。熊穴沢小屋より左折すると天神平への泥濘の道はぬかることこの上ない。山肌の雑木林を行くが限りなく散る落ち葉に詩題がいっぱいだ。一ヶ所の登りを過ぎれば道は乾いて落ち葉を踏んでのプロムナードだ。眼前が開ければ天神平である。現在はスキー場延長とのことで目下開拓中。ブルドーザーが目覚ましい活躍をしていた。谷川ロッジで休んだ後、ロープウェイを利用して土合駅へ出た。