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上高地周辺(山越君追悼山行)
小島 作蔵

山行日 1963年8月10日~12日
メンバー (L)小島(作)、西島、岡野、小沢、山本、佐藤、上村、赤羽根、野田、牧野、浦島、宮原、溝越、片岡、印牧、高田、宮崎、他5名

8月10日(曇時々雨)
 松本よりマイクロバスで銀座並みの人で混雑する上高地へ。河童橋のベンチに荷物を降ろし荼毘地へ向かい、若くして生命を絶った幾多の岳人達の眠るこの地に、故山越君の石碑がひっそりと建っている。持参の花と線香を碑前に供えしばし黙祷の後、全員で雪山賛歌を歌って慰霊祭を行った。
 河童橋に戻りパッキングをし直し、5月の合宿にベースを張った岳沢へ入る。荷が意外に重く疲労が激しい。天気が良いと眼前に穂高の峰々が天を衝いて見えるのだが生憎の小雨混じりの天気で何も見えなく、疲れは一層激しくなり約2時間のアルバイトで天狗沢の出合対岸の天幕地へ着いた。名古屋より先に入山している西島氏の歓迎を受け直ちに天幕を設営し、昼食を摂っている時、前穂から佐藤君パーティも到着し、総勢20人が揃った。一休みの後、雨の中を天狗沢の遺体発見地点へ、全員ケルンを積みに登り、全員の協力で1mあまりのケルンを積み、周囲に咲いている花を集め線香をあげ、全員黙祷の後、雨の中を帰幕した。
 雪崩の爪痕の地点も今は夏草が生い茂り色とりどりの花が埋め尽くし、あの事故が嘘のような気さえする。しかし、雪は消えても彼の面影は一生消えないだろう。夕食後、星が見えた夜空の下でファイヤーを焚いて語り合った。

8月11日(雨)
 5時起床、好転を期待したにもかかわらず現実は反対の雨、今日帰京する小沢、野田、それに佐藤君ら一行と別れ、小雨の中を前穂へ登る。雨男の山越君の追悼山行のためか、それとも彼の涙雨か、雨は降り止まない。前穂山頂も一面のガスで何も見えない。山頂で奥穂~天狗のコルへ行く西島さん達と別れ我々は帰幕した。バーナーの故障で遅い夕食を摂り、牧野君らが上高地へ降りて購入してきたビールで気焔を少々上げた。夕食後、西島さん達のテントより、水量が増えたので気を付けるようにとの連絡がある。その後、西島さん達も明日沢を渡れなくなるといけないので我々のテントの傍に移設する。雨で濡れたシュラフと岳沢を流れる激しい水音と石ころが流れる音とで度々目を覚ます。

8月12日
 5時起床、岳沢の水量は昨日より増え我々のテントのすぐ傍を不気味な石の流れ出る音と共に濁った水が勢いよく流れ落ちていく。正面の大滝も名前の通り白い箒のように落ちている。朝食後、雨中でテント撤収。上高地で山本、牧野、溝越、上村、赤羽根、浦島、他1名と別れ我々は帰京した。


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