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斜里岳
湯本 護

山行日 1963年8月13日~14日
メンバー 湯本、渡辺

 北海道を薄汚れた服を着て既に2週間近くほっつき歩いている。
 東京を7月30日に発ち、あちらこちらと回り北海道の秘境と人が言う知床半島の斜里岳へやってきた。斜里駅で食料を仕入れ、営林署に山の様子を聞きに行ったが、ここでの話が『マムシは今が最盛期で、先日も熊が出たから注意しろよ』とのこと。しかし、美しくどことなく富士山に似ている斜里岳に魅せられた美男子二人?は駅前よりバスに乗り込み、斜里岳登山口まで30分ほど揺られ、山の麓かと思って見ると山は遥か彼方に見えた。車掌に聞くとここが登山口とか、まったくもってのんきな話であり、山の麓まで3キロ余り重いキスでアルバイトをさせられた。今夜は麓の無人小屋にてバク。
 8月14日、早朝元気いっぱい山頂へと向かう。天気の方も上々で絶好の山日和となる。サブ行動なので二人とも快調に飛ばし一ノ沢までは登りらしい登りもないままに1時間ほどで着き、沢のすぐ近くにある清岳荘にて小休止。ここまでは高原を歩いているように感じられ、たまに右手後方に斜里の町が見え趣をそえる。ここより一ノ沢を登って行くのであるが、別に北海道の山という感じはなく、ただ営林署の人の話によるマムシと熊がどうも胸の中でもやもやし、唯一の北海道的山の気分を味わせてくれた。
 一ノ沢は水が豊富で飲み水には困らなかったが、鉄分を含みお世辞にもうまい水とは言えなかった。一ノ沢より頂上間近の馬の背までは、この沢を登り詰めるのであるが大小の滝が所々にあり疲れている二人を慰めてくれた。沢の両側にあるダケカンバの林が辺りの視界を遮っているため、ただ黙々と登るのみであった。途中、女性の登山者に遭ったのが二人にとってせめてもの慰みとなった(美人だったからね!!)。
 馬の背の手前にガレ場があり、沢を離れこのガレ場を登り切った所が馬の背で、やっと視界の利く所に来たのに生憎のガスがかかり良い展望は望めず。ここより山頂までは一気に登り昼食を食べた。運良くガスが去り知床半島の中央にある羅臼岳が残雪を伴って姿を見せた。また眼下にはオホーツク海が広がり微かに根室の方面も見え、この分だとソ連でも見えるのではないかと思ったが、そうは問屋が卸さず、オホーツク海沖にガスのカーテンが張り巡らされてあった。ここに来て本当に北海道の山らしい山に登ったような気がし、昼寝の後に爽やかな気分で下山するに至った。


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