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三峰に入会して
牧野 盛治

 『牧野君、君が三峰に入会してからもう1年近くにもなるね』今更ながら月日の経つのは早いものだと痛感する。とりわけ登山をする僕らにとって尚更のことにね。1年が短いということはそれだけその年が充実していたと言えるんじゃないかな。とにかくこの1年間は良く山へ出かけたものだね。それも一つ一つ素晴らしい山行だったそうじゃないか、以前の君ときたら物見遊山的な気分でいたから指導標にいたずら書きをしたり、草木を痛めたりして山を冒涜していたね。それでいて一人前の『山ヤ』として意気がっていたね。それがいかに愚かなことであったかを知ったのは会に入ってからなんだね。いささか遅まきの感があるが、それだけ成長したと言える。また君の山行は単独行が主だったね。気ままな一人旅で単独も結構だがそれだけに山の厳しさを体験するはずなんだが、君はそれを回避していたね。それは君が単独を好んでいたのではなく、単独にならざるを得なかったんだ。それがどうだろう、三峰に入ってから水を得た魚のように生き返ったし、今まで君がとても行けない『高嶺の花』だなんて言っていた山々を極めたじゃないか、そして更に困難な山へ向かおうとしている。これはどういうことだろう、僕はこの大きな変転に砂からず戸惑っている。君自身も同じ思いじゃないですか。
 君が自信をつけたのは南ア縦走じゃないかな。確かにこの山行は君の圧巻だったが、また非常に意義のある山行だったと思うよ、君も最後までやれると思わなかったろうね。ムードで縦走してきたそうだがそれで良いんじゃないかな。長期間の縦走にはむしろそうすべきかも知れないね。
 この三峰でつくづく団体生活の重要さ、愉しさを知ったことと思う。そして当然のことながら山の厳しさ、愉しさも経験し山への一層の愛着を持ったと思う。ともあれ今の君は幸福そのものだが、それに甘えてはいけないよ、まだまだ君には学ぶべきことが沢山あるのではないかね。常に前向きの姿勢でいてもらいたいのだ。良き山ヤは、とりもなおさず良き社会人なのだよ。登山はそのまま人生の縮図だと言える。山あり谷あり、その逆境を乗り越えるべく荒波と戦う姿は雄々しくあり美しくもある。
 君には良き山仲間がいるじゃないか。君の羨望は達成されたのだから、これからも大いに活躍してくれると思う。
 『山こそ我が生命』などとキザなことは言ってもらいたくないが、君の人生の潤滑油としてこれからも山に生き続けるだろう。いや、もうその油を多量に必要とするほど大きな機械になっているかも知れない。


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