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新雪の山々
山本 政雄

 11月ともなると薄っすらと雪化粧した山々に想いが馳せ、じっとしておれなくなった。

11月10日(谷川岳中ゴー尾根)
 明日の素晴らしい天気を信じ、三等寝台に潜り込む。だが土合に降り立つ頃ポツリポツリと時雨、マチガ沢出合の小屋に入る頃、目も開けておれないほどの風雪となり湿気で全身ビッショリ。朝食を摂りながら様子を見ることにする。7時過ぎ、嘘のように雪は止み外へ出るとガスの中にマチガ沢が威圧的に聳えていた。すぐにガンゴー新道へ、予想したより雪が多く新雪の感触を楽しみながらも森林帯をゆっくり登る。稜線は20cmほどの雪でガスり一段と寒くなる。憬雪小屋で小休止していると肩を叩く者があり振り向くと元会員の吉田さんであった。「やあー」ということで色々話をし、お互いのコースを検討し合い茂倉新道を下る予定を変更する。少しどもりながら話す彼が懐かしかった。
 ザンゲ岩を注意し声をかけながら無事通過。肩の広場に着くもガスのため小屋が判らず苦労した。小屋の中は20人くらいの仲間で賑わっていた。腹ごしらえをして頂上オキノ耳を往復したが視界はゼロで、ただ這松がすっかり樹氷となり海のように美しかった。小屋へ帰る頃睫毛につららが下がっていた。帰路は中ゴー尾根を下る。急坂の連続で膝が笑ってしまった。二俣に下り着く頃天気は回復に向かい南面の岩場の上に国境稜線が白く輝いていた。

11月23日、24日
 9時頃の新宿には山ヤの列が続き乗れるかどうか心配しながら歩いていると山本(敬)さんが追いかけてきて彼の場所に入れてもらい無事乗車できた。北八ツに行く原口、浦島さん達も一緒で賑やかであった。甲府で山本、中山両君の健闘を祈り別れる。茅野に着くとラジオで「ケネディ暗殺さる」の報を聞き驚いた。原口さん達と別れ農場行きのバスに乗る。農場に着く頃風が出て八ヶ岳はガスですっかり包まれ明日の天気が気遣われる。
 24日、寒さに震えながら朝食を済ませ出発する。素晴らしい天気で赤岳、横岳がモルゲンロートに輝いている。何と美しいことだろう!!アイゼンの食い込みが快適だ。阿弥陀岳と中岳のコルへ出て赤岳へ、頂上よりの展望は北ア、御岳は真白で南アは新雪に輝いている。特に北岳、駒、仙丈は互いに競っているかのように聳え、また延々と続いている富士がくっきり浮かび印象的だ。硫黄、北八ツを経て秩父の山々が望まれる。北岳の山本さんや北八ツの原口さん達に「モートー」のコールを送る、こちらへもきっと送っているだろう。横岳の縦走は雪がすっかり凍っているため緊張する。昼過ぎ耳が千切れそうな寒風に晒されながら硫黄岳へ。赤岳鉱泉に一気に下る。時間もないので荷をまとめ長い裾野を農場に向かった。後を振り向き振り向きしていくうちに頭上に阿弥陀岳がいつまでも見送ってくれた。


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