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荒川岳~赤石岳
小沢 正美

山行日 1963年12月29日~1964年1月3日
メンバー (L)小沢、原口、小島、山本、野田、藤田、牧野、花岡、高田、風間

 63年冬の穂高岳のポーラーメソッドによる前穂に続いて今年もポーラーにより天候の比較的恵まれる南アルプスに向けられ、赤石、荒川にポーラーメソッドの習得、合理的な運行と行動、高所幕営を目標に伝付峠越えに決定。昨年夏の南アのリレー全山縦走時に偵察を、11月には荷揚げを、また富士山にて新人訓練と冬山の基礎技術の合宿を持ち備えた。

計画
 11月の偵察によりBCを千枚岳直下の森林限界に、ACを荒川岳と大聖寺平のコルに置くのが最適と決定した。

行動記録
12月28日
 メンバー9名、後発の原口及び多数の会員に見送られ、23時30分発の東海道で出発。
12月29日(晴)
 身延発の始発バスで田代へ、荷物をまとめ特大のキスリングを背に出発。重荷と寝不足で全員バテ気味、カチカチに凍った峠を越えて二軒小屋へ入る。夕食後荷揚げしておいた荷をまとめる。
 原口、東京を出発する。
12月30日(晴)
 BC設営に9名にて上がる。高度が上がるにしたがって雪量を増し、雪が腐って登りにくい。2,550m付近でボッカの野田、高田は二軒小屋へ下る。二人の荷を少量ずつ分担、更に登って森林限界にBCを設営、AC設営物資をまとめ明日に備える。後発の原口、二軒小屋へ入る。
12月31日(晴)
 明るくなると同時にAC建設のため天幕を出る。意外と積雪が少なく千枚岳の悪場もほとんど雪を付けず夏道通り難なく通過。マンスケの頭を右に見て絡むように這松帯を登り悪沢下の窪地にラッセルし強風の悪沢へ。強い西風をまともに受けながら稜線を夏道通りに荒川岳へ下る。アイゼンの軋む中岳を快調に荒川小屋への夏道を左に見送って、スッパリ西面を切り落とした荒川岳の岩と雪の入り混じった痩せ尾根をコル目がけて慎重に一歩一歩下り、三角形の一枚岩の上部のやや広くなった窪地でAC隊の小島、山本、牧野、風間とでサポートを終わり、明日の成功と合流を約し、小沢、花岡、藤田、BCに引き返す。
 AC隊は更に岩稜を下降、荒川岳と大聖寺平とのコルにACを設営、明日のアタックに備える。
 ボッカ隊=野田、高田は早朝に昨夜合流した原口とBC用物資を背にBCに入る。
1月1日(晴のち雪)
 満天の星空に気を良くした我々は本日下山の藤田に後を任せてBCを出る。ラッセルもなく快調なピッチで悪沢の悪場を難なく下り荒川岳を通過。前岳の痩せ尾根を小渋の谷より吹き上げる西風を受けながらコルのACへと下る。ブロックに囲まれたACに9時に入り小休止。この分なら赤石に登りBCに帰るのも可能とACを発つ。大聖寺平手前でAC隊と遭い、登頂成功を祝し赤石へと急ぐ。
 悪沢山頂で微かに赤石岳の上空に波状の雲を認めたが時間と共に広がり、赤石山頂に立った11時頃には黒雲が空を覆って風も強まり、入山以来の連日の晴天も完全に下り坂で、登頂の感激もそこそこに休む間もなく引き返し大聖寺平の休風を避け、夏の巻き道を荒川小屋へ回り込んでACの跡で小休止。増々悪化する天候と前岳の岩稜の登りには疲労の色も濃くなり苦闘する。悪沢岳のコルにて小休止。原口をトップに小沢、高田、野田、花岡とオーダーを変え、横殴りの風雪の中を登る。悪沢頂上下の風下の窪地はかなりの積雪となりラッセルに苦労する。おまけに日暮れも近づき、千枚岳の痩せ尾根では完全に日は暮れ懐電のやっかいになる。ヘッドランプに照らし出される微かな足跡を辿り、千枚の頂を右に入ってガレに沿って下り森林帯に入って全員雪ダルマになって18:30小島、山本、牧野、風間に迎えられ帰幕する。
 AC隊=6時ACを出発赤石へ、9時BC隊と遭い赤石登頂の成功を分かち、BC隊の成功を祈って別れ、ACを撤収、天候の悪化にBC隊を気遣いつつBCへ。
 全員そろって温かいオジヤをすすってお互いの無事を喜びあう。
1月2日(高曇り)
 今朝はゆっくり荷物をまとめBCを撤収。昨夜の降雪で一段と雪の深くなった尾根を大井川の河原に一気に下って二軒小屋へ。
 凍り付いた天幕を乾燥、荷物を整理し明日の下山の準備をする。夕食には食当自慢のカニコロッケに夜遅くまで舌鼓を打った。
1月3日(曇)
 昨日ゆっくりしたので6時に出発。一段と積雪を増した伝付峠を越え、新倉12:45のバスに乗り夕方帰京。

 極地法登山でスムーズな合理的運行と行動と稜線上における高所幕営を目標に向かって、ともかく一応合宿を達成し得た今、合宿を顧みて内容的に欠陥を見ながらも登頂の成功をもたらしたものは、メンバーの結束と入山以来連日の晴天、雪の少ないためのスムーズな行動である。が、その中にも各自のコンデションを画一的な判断から急遽変更、冬山の鉄則を破る結果となり、一部は不満の思いを抱かせた。
 年々装備も満たされ、幕営用具も余裕ができ、バーナー、ザイル等で若干過装備になったが、キルテングコート等近代装備を大いに利用すべきものと反省された。
 当初の目的を一応達し得たことは全員の冬山への気力によるもので我々にとって大きな喜びである。

〈コースタイム〉
12/29 田代(9:05) → 伝付峠(15:30~15:50) → 二軒小屋(16:50)
12/30 二軒小屋(6:00) → マンボーの頭(11:00) → BC(14:00)
12/31 BC(6:50) → 千枚岳(8:00) → 悪沢岳(9:50~10:00) → 荒川岳(11:15) → 前岳(11:20~12:00) → サポート終了点(12:25~12:40) → 前岳(13:00) → 悪沢岳(14:25) → 千枚岳(15:00) → BC(15:40)
AC隊=AC設営点(13:25)
1/1 BC(5:50) → 千枚岳(6:30) → 悪沢岳(7:45) → 荒川岳(8:40) → AC(9:00~9:15) → 赤石岳(11:00~11:15) → AC跡(13:00~13:15) → 悪沢岳(16:30) → 千枚岳(17:30) → BC(18:30)
AC隊=AC(6:10) → 小赤石(7:45) → 赤石岳(8:10~8:20) → AC(9:40~11:15) → 前岳(12:30) → 悪沢岳(13:30) → 千枚岳(14:50) → BC(15:50)
1/2 BC(10:40) → 二軒小屋(13:30)
1/3 二軒小屋(6:30) → 伝付峠(8:10~8:20) → 新倉(11:20)

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