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後立山縦走
牧野 盛治

山行日 1964年5月1日~4日
メンバー (L)小沢、小島、野田、川村、藤田、牧野

 黄金週間に年間計画通り後立山を縦走。予定の五竜岳は好転に恵まれず断念したが、針ノ木から鹿島までつつがなく完了したのであった。ただ縦走路は全然雪がなく、まるで夏の縦走のような感を抱かせた。

5月1日(曇のち雨)
 前夜発の急行『白馬』で新宿を出発。例によって差し入れのアルコールに舌鼓をうって、メーデーの朝、信濃大町の駅に立つ。ところがとんでもないことに、車中に鍋1式を置き忘れてきてしまった。ツラツラ想い出してみるに、どうやら新宿駅での列車乗り込みの際のごたごたで、別の車両に忘れてしまったとか。その車両が松本止まりらしく、駅員に連絡、早速、野田、藤田ご両人に取って返してもらう。二人が松本往復の3時間、我々は駅前で暇つぶしに四苦八苦。車中同行の山本と花岡は鹿島の壁を目指して、すぐタクシーに乗り込む。我々も二人が鍋を引っ提げて帰ってくると同時にマイクロバスをチャーター、舗装道路を扇沢の先、大町トンネルの入口まで快適に走る。バスを降りてすぐ沢に入り、大沢小屋まで1ピッチ。この調子なら峠はすぐだぞと意気軒昂。小屋を過ぎていよいよ雪渓に入り傾斜も増してくる。この頃からガスが下りて小雨が降り始める。通称「ノド」と呼ばれる所を曲がれば稜線も見えるだろうと期待するが、上はガスの厚みが増して全く見えない。枝沢に注意しながら急斜面を一歩一歩慎重に進む。何度稜線の幻を見たことだろうか。大沢小屋から3時間、非常に長い時間であったが、ガスの切れ間からようやく待望の稜線が見受けられ、重荷と雨中の行動にヤケ気味になっていた我が身をムチ打つ。このような行程の末に目的地に着いた喜びは例えようもない。
 稜線上の針ノ木小屋に入って濡れた着物を乾かし、ヘトヘトに疲れた体を休める。夜メシを流し込んでしばらくすると雨が上がり、剱方面に虹が出て晴の兆候。そして立山も見え始め、やがて鹿島槍もこれから辿る山々と一緒に姿を現した。雨上がりの澄んだ夕暮れの空に薄黒く浮き上がる後立の山々の何と美しいことか!昼間の激しい労働の後だけにその詩的な美しさは尚更である。寒さも忘れて見とれた後、明日の好天に浮き浮きしながらシュラフに潜り込む。

5月2日(雨のち時々晴)
 期待に反して朝から雨。一応出発の用意をするが一時風雨が強くなり停滞を決意。しかし、晴れそうな気配なので小屋を出る。針ノ木岳へは雪の上をトラバース気味に登って山頂を極める。立山、剱が全貌を現し、その向こうに薬師も見えて展望はすこぶる良い。時折射す陽射しを楽しみながら縦走ならではの激しい登り下り。しかし、相変わらず雪のない道と肩に食い込む重荷にいささかうんざり。その上に長い行程が輪をかけ、岩小屋沢岳辺りになるとさすがに足が重く疲労の度を増す。やがて見えてきた赤い屋根の種池小屋も大分遠くに感じる。長ーい行程の末、ようやく混雑する小屋に入る。鹿島槍ももう眼前だ。

5月3日(曇のち時々雨)
 今日もすぐれない天気に気分も沈みがちだが出かける。爺岳の山頂は寄らず巻き道を進み、冷池小屋に入る。ここでしばらく天気待ち、上がりそうもなく本日の行程はこれまでということで、我々サボリーマンは歓声を上げる。人で一杯の小屋を避けて初めて天幕を張り、食って遊んで寝てといいった具合に「三峰の優雅な生活」を楽しむ。全員トランプに熱中、勝った負けたに一喜一憂して時の経つのも忘れる。夕暮れに一瞬ガスが上がり、素晴らしい展望が待ち受けていた。満天の星空の下でのダベリングも自然と弾んでくる。

5月4日(曇)
 明け方の星空も明るくなると次第に曇り空となった。急いで朝メシを喰らい鹿島槍山頂へ。サブザックになると全員元気だ。40分間の1ピッチで布引を越して山頂直下まで来てしまった。高曇りではあるが展望は満点。大きなケルンの立つ山頂で全員握手。混雑する南峰を避け、吊尾根を北峰へと目指す。そこで大展望をゆっくりと楽しむ。ここから見えない北アの山はモグリだと言われるだけあって素晴らしい。カメラのシャッターも大忙しだ。南峰の向こうに遠く槍、穂高そしてはるけくも歩いてきた針ノ木からの山脈、その横に雲の平、立山、剱そして薬師、遠くに白山。背後には大キレットを隔てて大きな五竜岳、遠くに白馬三山。日本海も見える。いつの日にこの大山脈を歩き通せるのだろう。
 足元はカクネ里にすっぱりと切れ落ちる壁。天狗の鼻辺りに会の物と思われる黄色いテントがみられる。全員で「モートー」をかけるが応答なし。今頃、山本、花岡ご両人岩にかじりついているのだろう。無事を祈りながら山頂を辞す。往路を戻り下の方に見える「我が家」に向けのんびりと下る。途中、キャラバンを履いたハイキングスタイルの女性に出会いうんざりする。背中にピッケルをぶち込んだカッコイー姿も全然冴えない始末。前日トランプ場と化したテントを撤収、赤岩尾根を遥か下方にテント村となっている西俣出合へと下る。脚をガクガクさせながら一気に出合までくだってしまう。後は鹿島まで黙々と進む。かろうじてバスの最終に乗り込み大町から松本に出て、松本の信州会館で4日間の汗を流し、ビールでご機嫌な乾杯。汽車の中でも徹マンならぬ徹トラ。しかし、さすがの猛者も甲府辺りでダウン、白河夜船となった次第である。

〈コースタイム〉
5/1 信濃大町(9:15) → トンネル手前登り口(10:05) → 大沢小屋(10:50) → 針ノ木小屋(15:00)(小屋泊)
5/2 小屋発(7:10) → 針ノ木岳(8:20~8:30) → スバリ岳(9:10) → 赤沢岳(11:20~11:30) → 鳴沢岳(12:15~12:25) → 岩小屋沢岳(14:15~14:30) → 種池小屋(14:05)(小屋泊)
5/3 小屋発(6:20) → 冷池小屋(8:10)(天幕泊)
5/4 幕場発(6:00) → 鹿島槍(7:20) → 北峰(7:50~8:30) → 冷池小屋(9:45~11:30) → 西沢出合(14:00~14:30) → 大谷原(15:30) → 鹿島バス停(16:30~16:45) → 大町(17:20)

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