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僕の初山行
佐藤 昇弘

八ヶ岳縦走
 僕の山は6年前、8月の八ヶ岳であった。参加者は6名、小学校からの親友であり何度か打ち合わせをして係を決めた。僕の係はテントであった。天気は台風の心配はあったが木曜2時、全員一番前に並んだ、もちろん八ヶ岳行きの新宿発である。この時の自分の気持は未知の世界で胸一杯であった。ノロノロの小海線で翌朝松原湖駅に着いた。雨がしとしとと降り嫌な天気である。稲子湯までバスに乗りノコノコと暗い森の中を歩き、ミドリ池を過ぎた頃、雨は土砂降りになってきた。どうやら『台風上陸』ときた。テントが雨のため張れず、その日は夏沢小屋に入ってしまった。
 朝は6時頃だったと思うが出発した。夏沢峠からの眺めは台風の後だけに素晴らしかった。昨日の疲れは嘘のように、つくづく来て良かったと思った。夏沢峠の手前で確か先に行った2人が見えない、1時間待っても来ない。我々4人の食料は予備のフランスパン、サバの缶詰二つ、チョコレート、煎餅少し、水筒に水3本しかない。とにかく先に行ってしまっただろうということで、4人は出発する。硫黄岳から横岳への下りは花が咲き乱れ、風が心地よく言葉では言いようのないほど感激したことを覚えている。鎖場をいくつか慎重にトラバース、いよいよ赤岳の登りだ。この登りの苦しかったこと、未だに忘れられない。でも不思議なことに足は機械的に動いていた。この時自分のことで一杯であった。前が止まってしまったので後を見ると、友は遥か下の方で喘いでいた。赤岳頂上に立った時丁度昼であった。周りの見知らぬ人達のキュウリ、リンゴを羨ましそうに見ながら4人でパンを齧り全部食べ尽くしてしまった。食料係の2人の姿は見えない。権現、編笠から小淵沢へ下る予定であったが、食料がなくては行動不可能だ。4人で真教寺尾根を下ることにする、水は全然なく空っぽだ。ウィスキー1本しかない。ガクガク下りながら4人で飲んでしまう。さあ今度は喉がヒリヒリする。困ったの何の水、水、水...である。美森山キャンプ場前で3人グロッキー、一番元気な僕が水を貰いに行き飲んだ水のうまかったこと、食料係の2人を恨みながら清里に着いた4人とも完全にグロッキー。小淵沢行きの汽車に乗ったら、食料係の2人が乗っていた。今思えば見えない糸で我々6人を結んでいたとしか思えない。もちろん天気が悪かったら重大なことになっただろうと後で反省した。
 彼等2人の話を聞くと、道に迷い2時間ぐらいうろつき松原湖に着いたと言ったが、半分本当で半分嘘と4人は目を合わせた。とにかく無事であるので、またガヤガヤと色々な話をおっ始め小淵沢駅に着く。最終に間に合い朝帰りであるが、駅で夜食とラジウスに火を点けたが、またここで失敗をやらかした。ラジウス不調で火だるまだ。さあ砂を掛けるやら、布を被せるやらでやっと消したが、これで夜食はパアー。あるもので腹をごまかし、朝早く新宿に着いた。
 以上が僕の初登山の思い出である、この時ほど山の良さが体の隅々までしみたことはない。それだけに僕の山行がただ山に登りたい、楽しみたいという気持ちだけではなく、自分自身があらゆる事でだらしなくなった時初めて山に行くことにしている。山の好きな皆さん、僕の知らない山行へ連れて行って下さい。よろしく。 ー完ー


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