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笛吹川東沢釜ノ沢
牧野 盛治

山行日 1964年10月18日~19日
メンバー (L)牧野、溝越

10月18日
 参加者、溝越のみ!!前日の昼発ちの予定を都合で前夜最終で出発という強行軍。着いた塩山駅では天科行きのバスが5時過ぎだ、とかで『地』を出して腕マクラでゴロ寝。バス停に大勢居た人間も大菩薩、乾徳へと散ってゆく。我々も散りもうそう。
 天科から近道を取って軌道を歩くが急がば回れだった。林道を行く登山者がおりからのトラックに運ばれてゆく。川を隔てた対岸の我々、あれよあれよと指をしゃぶりながら見ているだけ。今更悔やんでも後の祭り。テヤンデェーこちとら立派な足があるんだ、何のため足があるんだよ、何もトラックに乗るためじゃネエンダ!!べらぼうめ。口惜しかったら歩いてみろ。とわめきながら息巻く。そのうち雨が降り出し、大急ぎて広瀬部落を通過、雨に煙る笛吹小屋もトットコトットコようやく山道に入り、西沢と分かれる二俣に到着。西沢へは立派な道がついており1、2時間も歩けば秘境奥秩父温泉に着くという。しかし、新聞に紹介されて以来観光客だか登山客だかが大勢押しかけて秘境じゃなくなった。雨が相変わらず降り続き晴れ男の我々、こんな筈じゃなかったのに。その中を笛吹川沿いに作られた細い山道をぬかるみに足を取られながら危なっかしく進む。ちょっと紅葉には早過ぎたがそれでもなかなか美事。河原に降りると雨のために増水した川を飛び石伝いにポンチョをなびかせて行く。さながら黄金バットか月光仮面かといったところでカッコイーヨ。あっち行ったり、こっちに飛び移ったりしているうち東沢小屋に着き、食料を腹に詰め込んで濡れたまま出発。この辺りの紅葉は丁度見頃で素晴らしい。仰ぎ見ると鶏冠山の岩が見えるし、川の両岸に岩がそそり立ち紅葉がまるで南画のような雰囲気を醸し出す。カラーフィルムの絶好のチャンスと意気込むが雨のためチョン。東のナメ、西のナメは普段より水量が多く、遥か上から滝の如く滑り降りてくる。尾根から一枚岩のナメとなって川に落ち込んでいて圧巻である。言うことなし!!右に左にと渡り返して面白がっているうちに釜ノ沢の分岐点に到着。水量が多いためここから戻ったパーティもいたが我々は先へ急ぐ。これからが笛吹きの良い所、釜ノ沢の名の通り素晴らしい滑、滝、淵、釜の配列である。またまた言うことなし!!沢に入るとすぐに滝が連続する、大木を抱えたりして高巻き、釜を渡渉する。靴を履いたまま釜に入れば何のことはない五右衛門風呂である。つるつる滑る一枚岩の上をおっかなびっくり。紅葉のトンネルの中を慎重にかつ恐る恐る進む。沢に滑り込んだら下までながされてしまうだろう。よく滑るビムラム底が煩わしくなる。船窪状の一枚岩を過ぎ、滝をいくつか越えるとやがてクライマックスの両門の滝である。いつ見てもいいね。右手の滝スレスレに登ってゆくスリル満点の道。上方の滝も二つ越えると奥秩父らしい原生林に入って、この沢の面白いところは終了。これからが長げえんだ。普段は伏流となっているのだが、ここもどうどうと流れている。どうやら2人共夜行の疲れと強行軍でバテ気味である。最後の滝を越えた所で一本立ててメシを詰め込み、元気になって再出発。やはり我々は空腹には勝てなかった。甲武信岳の頂上が木の間越しにチラリズムで見参し、沢も斜度を増して道も沢筋をへつるようになってくる。やがて対岸に渡ると待望の小屋に向かう水場のところの直登だ。皆、この登りで参った参ったとくる。我々も付き合ってグロッキーとなる。ようやく尾根上の甲武信岳の小屋に入り込む。濡れた物を乾かして暖かい旧館の二階で2人だけの特別待遇。あーァいい気持ち。新館の方は寒くてガタガタ震えているだろうに。
10月19日(快晴)
 ゆっくり小屋を出発、人気のない山頂でカラー写真をパチコンパチコン。御機嫌に晴れ上がっちゃってマァー。昨日歩いてきた東沢が紅葉の下にうずくまって長く延びている。遠くには先日歩き通した北アが、八ヶ岳が、南アがその他諸々の山々が。あー幸せ。切りがねえから山頂を辞して十文字峠へ。途中所々ある岩場でスリルとサスペンスを楽しむ。大山山頂で関大ワンゲルの大パーティに出くわし、そう100人は居ったかな、『こんにちわ』を言うのが面倒くさくなりこそこそと退散。十文字峠手前でやはり関大の今度は女性ばかりの連中。何せ20数人も並んでいるんだ、純情可憐な我々、下を向いて足早に通り過ぎる。すると連中ソプラノの声でのたもうに『ガンバ!!』いやー参った参ったね、原生林で薄暗い峠に立ち、案内板の落書きに憤慨。美しい紅葉を愛でながら八丁坂を千曲川目指して駈け下る。今が盛りと彩る紅葉の素晴らしさ、空の青さ。空は晴れても腹が減った。ホエーブスを点けて焼きソバでもと思ったのだがマッチが見当たらず、先行者のマッチ目掛けて駆け下りたが追い着けない。モクも吸えない、とぼやいているうち梓山に着く。ブッタルンダ身なりを整え、御髪をとかして町に入る。バス停でマッチをもらい、河原に降りて待望の焼きソバ。バスの発車までに時間があるので砲丸投げや猫をからかったり。信濃川上から小学生の遠足帰りで混む。小諸線に揺られ小諸へ。我々小学生にからかわれて困っちゃった。小学生がませているんだか、我々がウブなんだか。


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