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奥秩父を歩く 其の2 雲取山から将監峠

 前回は軽い1日行程で雲取山まできた。健脚の人ならば、将監小屋まで足を延ばすことが出来よう。雲取から笠取までは、例の農大のしごき事件の舞台となったコースを丁度逆に遡る訳である。この事件を云々する事はここでは問題外であるので控えるが、この明るい平和なコースが事件の舞台になった事は何とも痛ましい限りである。
 さて、雲取山頂の大展望を満喫したらば、出発としよう。石尾根への道を見送って、足をガタガタさせて急斜面を下る。主脈が段々とせり上がり、大菩薩が増々高くなるとやがて三条ダルミだ。雲取小屋から山頂を忠実に踏んできた道がここで合し、そのまま三条の湯へと下っている。三条の湯へは小1時間程で着くが、川のせせらぎと鳥の鳴き声しか聞こえぬ静かな奥秩父らしい所である。小屋の前には鹿の湯と呼ばれる湯場があり、ここでの一夜は印象的で素晴らしい想い出となることであろう。ここからは、サオラ峠へ向う道と青梅街道のお祭に出る道とが別れ、前者は丹波村へ、後者は長い林道歩きがお好な人に向いていよう。三条の湯の後からまっすぐに登っている道は主脈の北天のタルヘと向う径である。我々はまた、三条ダルミに戻って、主脈を歩こう。ここから先はしばらく平らな、明るい萱戸の道である。狼平、三ツ山、岳雁台、三ツ岩等を知らず知らずのうちに通り過ぎると指導標のある北天のタルである。ここまで来ると、もう飛竜は近い。縦走路は飛竜の山頂を通らないが小さな祠があるのでそれと判る。山頂へはここから5分程、石楠花の群落を進む。全然展望がきかないが、このあたりの石楠花の群落は見事である。6月初め頃はきっと素晴しい景観を呈するであろう。縦走路からはずれた前飛竜へは石楠花の中に道が開かれている。小さなピークの前飛竜は意外と展望が良い。もうこんなにも歩いたのかと思われる程、雲取山が遠い。この前飛竜で道は二分され、岩岳尾根とミサカ尾根となり、どちらも青梅街道まで延びている。岩岳尾根は34年の国体の際に開かれたもので、飛竜からの下山コースとして利用する人も多くなった。ミサカ尾根は前飛竜から急降下の末、三条の湯からの道と合し、サオラ峠に出て、更に天平尾根となって親川まで長く延びている。
 飛竜の祠の僅か先に縦走路を外れて禿岩がある。一本立てるのにはもってこいで、その展望の良さは素晴しい。足下には大常木谷を始めとする奥秩父の名うての沢が切れ込み、正面には南アの山々、そしてこれから辿ろうとする奥秩父の主脈がせり上っている。小休止どころか、大休止したくなる所だ。案外とここを知らずに通り過ぎていく人が多い。道はここから直角に右折し、幽遠な原生林と、所々に咲きそぼる石楠花の中を大ダルまで下っている。飛竜を過ぎると他に分岐点もなく、尾根の左側をまきながら将監峠へと向っている。熊笹が現われ始めるともう峠はすぐそこだ。途中いくつもの小沢を横切ってきたが、これ等は本当の多摩川の水源となっていて、それぞれ小さな石碑で作られた水神社がある。やがて峠が見え始め、峠をわずかに下った所に将監小屋を見つける。夕方薄暗くなった時など、彼方に見られるこの小屋の灯はどれ程力強く、美しく見える事だろう。思わず駆け出したくなる。途中に峠を通らずに小屋へ行く近道があるが、判別しにくい。三ノ瀬部落の田辺さんが経営するこの小屋は穴だらけながら、今日はここ泊りとする。小屋の横から広い道が下っているが、三ノ瀬へ出る道で、一ノ瀬を通り犬切峠を越えて落合へ行く道と二ノ瀬を通り青梅街道を丹波へ行く道とがこの三ノ瀬部落から分かれている。


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