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奥秩父を歩く 其の三(上) 将監峠~雁坂峠

 奥秩父主脈中の三つの峠がこの行程の中にある。即ち出発点の将監峠、終着の雁坂峠、そしてこのほぼ中間にある雁峠がそれである。将監峠から雁峠まで殆ど登り下りもなく、のんびりと歩を進めることができよう。神秘的な臭いのする将監峠を後にし、僅かばかり登ると明るいカヤトの牛王院平に着く。熊笹の中に所々車ユリの鮮やかな色が見られるこの広場から、尾根通しに三ノ瀬へ下る道がある。この平も色々と伝説があり興味深い。山の神戸はこの少し先で、右手へ行く道は地図の白石山、俗称和名倉山へと続く。雲取山頂辺りから見ると、両肩を怒らせどっしりと大きく構えていて、見るからに足を踏み入れたい山であるが、踏み跡がはっきりしていないそうで充分注意する必要があろう。先だっての山火事はこの麓の方にある惣小屋付近が火元とか...。
 縦走路は山の神戸から左手に直角に曲がり、後は原生林の中を山腹を忠実に絡む一本道。稜線伝いに唐松尾山等著名なピークを越える踏み跡があるが、猟師が利用するもので我々は縦走路を行く。尚、時間があれば、奥多摩の最高峰唐松尾山へ往復1時間弱であるので寄って来ると良いだろう。飛竜と同じく展望が利かないが、むしろ途中から御殿岩の上に出る踏跡があり、ここの方が大展望を楽しめよう。
 山の神戸から幾つもの奥多摩の源流や砂地を越えて曲りくねっている。熊笹が現われ始めるとやがて唐松の中の道となる。黒槐尾根と呼ばれ、ここから三ノ瀬部落へ下る道がはっきりとついている。変わらず曲りくねった道は笠取小屋へと導びいてくれるが、単調な長い道にはいささかうんざりさせられる。笠取小屋は奥秩父の名物男、田辺正道さんが管理しており、彼の話しっぷりは実に愉しい。すすけた穴だらけの小屋のストーブを囲んで彼の話を聞く夜は印象的なものとなろう。しかし、前歯の抜けたヒゲだらけの口で、一向に上手くならない尺八をスースーやられるのには閉口。また田辺さんは無類の酒好きでアルコールを差し入れいてやると顔中に笑を浮かべて喜こぶ。愛すべきオヤジではある。


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