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夏山合宿 屏風岩第一ルンゼ
小島 作蔵

山行日 1965年8月5日~9日
メンバー 小島、横田、野田

第一ルンゼ概略図  8月6日晴、今日も良い天気だ。前穂東壁が朝日に紅く輝き美しい。今日の行程は長い、ビバーク覚悟で天幕を出発する。昨日偵察に行き確認しておいた横尾本谷岩小舎対岸100mの下流のルンゼの押出しに入る。太陽が昇り出し背中をまともに照らす。足場の悪いゴーロの急斜面を登るのはきつい。行程が始まったばかりなのに暑さであごを出す。Y氏がしきりに水を欲しがる。ルンゼは大きく右に入り込み、かなり高度を上げたのちに第一ルンゼに入るべくトラバースを開始する。藪漕ぎの嫌なところである。第一ルンゼの雪渓にてこれから取付く第一ルンゼの全望を眺めながら一休みをする。隣りの屏風岩東壁を登っている連中が青空へ飛び出るかのようにはっきりと望見出来る。カラカラとアブミのかけかえの音だけが聞える。水を充分に補給したのち岩に取り付く。雪渓からシュルントをとび越し草付ガリーに取付く。ノーザイルで登ったがちょっと厳しかった。次にチムニーが現れたが、これまたノーザイルで取付く。背中のピッケルがジャマになり、ザックとピッケルを外し、ピッケルのピックを残置、ハーケンの孔にさしこみ、それをホールドにして、ジリジリと高度を稼ぐ。チムニーを登りきったのち、ルンゼの中心にトラバースをする。ここでザイルをつける。オーダーはKーYーNである。
 10m程フェースを登りチムニーに入る。狭いチムニーなので、思うように手がつっぱれず頭や膝まで使って、唯上に登ることに専念する。厳しい所だ。テラスの上に出てホット一息、後続者を確保する。Y、N氏も息づかい荒く登ってくる。次のルートもチムニーのような岩溝のルートだ。身体全体のフリクションを使って、背中のピッケルを気にしながら尺取り虫のように高度を上げる。唯厳しいだけだ。喉がからからになる。各ピッチが色々な意味でしょっぱい。テラスに着いて後続者を確保し、ラストが登りついて、一服、東壁登攀中のクライマーの姿を眺める。彼らも辛いだろうが我々と同じに、きっと楽しいに違いない。次のピッチもルンゼの中心にルートをとる。トップをNに交代してもらう。依然としてチムニー登りである。チムニーと言っても足がやっと入るくらいの岩溝である。トップのN氏思うような足さばきも出来ず、スタンスもなく、フリクションでチムニーの出口までじりじりと登り、チムニーからフェースにルートを移動しようとして、アブミに乗ったまま一心にホールドを探している。ハーケンを1本打ったが鈍い音を残しながらどうにか岩に挟まった程度の頼りなさではあったが、それをホールドにしてぐっとのり越し、彼の姿は岩陰に隠れた。Yが登り、私の番になったが一瞬とまどった。トップめ、よく登りやがったな!と思い感心する。
 テラスの上でタバコを喫う。早く稜線に出て心おきなくタバコを喫いたいと思う。各ピッチ30mのザイルが一杯になる頃テラスがあらわれ、都合がよいのだが、幾らか疲れてきた。次のルートは、左のクラックを登り、スラブにトラバースして、ハングの下まで直上。いよいよハングに取付いた。ハーケンにアブミをセットしたが、ハーケンが抜ける気がすると言って、アブミに足をかけたり外したりして仲々はかどらない。しかしN氏どうにか覚悟を決めたのか、一気にハングを越し続くスラブもアブミをフルに使って、どうにか安全地帯に着いたらしい。しかし仲々ヨシと言う声がせず、じりじりしてくる。おまけに天気が急変して大粒の雨が降り出して来た。悪い状態になったと日頃強気のYが心配する。ややあってイイゾとの声、Yが登り私が登る。N、Y両氏岩壁途中の洞穴の中で確保してくれていた。トップをN氏より代わって洞穴から右にトラバースして、アブミを使って一段登り、更に左に飛ぶようにして、トラバースを行ない、再び谷芯にルートをとり、フリクションを使ってテラスの上に出た。ここでセカンドを確保し、セカンド到着と同時に、このテラスあまり広くないので、緩い草付を登って、広い草付台地にて、ラストのNを確保した。ラストのNはここにきて少々アマッタレやがって、緩い草付にかかるや、引ッパレヨと言ってYに引っぱりあげてもらった。全員この広い草付台地に集合した。ここが中段台地である(Y氏ここを名付けて角栄団地と呼んだ)、時にP.M2時、雨もいつしか止んで、薄日が射してきた。日光キスゲの咲いているこの台地で遅い昼食をとり、大休止を行なう。突如稜線から、東壁を終えた連中であろう、ヨーデルが聞えた。こちらよりY氏それに答え、ケラケラホーとヨーデルらしきもので応答する。忙中閑ありと言おう。
 ルートは、これより右に大きく曲がり、40度~60度位の大スラブが続いている。ノーザイルでフリクションとバランスで高度を上げると5mくらいの滝にぶつかる。その上は、尚もスラブが続き、スラブの最終部(奥殿...Y氏ここを新宿御苑と名付けた)に最後の涸滝(悪そう)が稜線に突き上げている。我々は時間の関係で、5mくらいの滝を越すと稜線に出るべく右にトラバースを開始する。しかし草付斜面なのと、ノーザイルということで非常に緊張する。おまけにルー卜をちょいと間違って草付を降りながらのトラバースになってしまった。このようなトラバースは初めてなので、声も出ない程の緊張が続く。全く最後まで苦しめるところである。草付登りが終ると灌木帯になり、腕力登攀となり、大分腕がくたびれた頃、今まで岩と土ばかりの目の前が開け、樹々の間から涸沢が目に映った。稜線に出たのだ。思わず出たぞ!と大声をあげた。時間はP.M4時である。岩登り延々10時間、とうとうやっつけたと思うと思わず3人互いに手を握り合い完登を喜びあう。
 ここからは踏み跡を屏風の頭まで、更に稜線伝いに道をとり途中沢筋に入り高度を下げ、涸沢道に出て、大分遅く、帰幕した。山本氏のあけてくれたビールが疲れた身体に染み渡る。アーッウメーッ!

〈コースタイム〉
8月6日
天幕(5:20) → ルンゼ押出(5:40) → 雪渓(7:30) → 中段台地(14:00~14:40) → 稜線(15:15~15:45) → 屏風の頭(16:50) → 下降路口(17:00) → 涸沢道(18:30) → 天幕(19:30)


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