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丹沢葛葉川
浅野 圭子

山行日 1965年9月19日
メンバー 宮坂、椎名、牧野、溝越、山本(良)、佐藤(史)、浅野

 新人の為の山行だというのに、新入はわずか3名、それに対して登山歴、三峰山岳会会員歴ともに年期の入ったベテラン4氏が同行して下さったのには、全く頭の下がる思いである。しかもオノコ方は、常日頃私が山男の理想像と信じて止まない金太郎さんの如く、「気ハヤサシクテ力持チ」新人と古だぬきサンとの交流に名ホステス振りを示された椎名さんにも敬意を表します。
 と、ざっとひととおり、新米らしく先輩をあがめたてまつることを忘れない。ところで最後がいけなかった。といっても私一人にとってであるが。新宿での別れに際して、先輩より例会報告を書くように言われた時の辛さ、先輩任せに歩いた山行で、コースタイムも無論つけていない。かといって、お世話になり感謝の気持を抱いている人に対して裏切りの行為など。この大和魂を持った私にできようはずがない。お仲間に加えて頂く為に、せいいっぱいの力をふりしぼって何とか書く決心はしたけれど、先に述べたように漫然と歩いていたので、普通の山行報告と違って。私個人の感想文になってしまいそうであるが、その点は情状酌量願います。
 生れて初めての沢登りであった。常に初めてのものにはつきものである期待と不安が胸を交叉していた。私達新人の前途を祝すかのように太陽は明るく輝やき、空は青く澄み切っていた。葛葉山荘でおじさんにわらじをはかせて頂く。これでもう山に関して一歩進歩を遂げたような気になりゴキゲンである。慣れないわらじスタイルにチョッピリ照れながらも元気に出発。
 台風24号、25号の影響のせいか水かさが普段より多かった(そうである)。そのため、初心者にとっては必ずしも楽とはいえなかった。「わらじとは滑らぬものなり」ということを頭だけでなく足でもって会得するのにも時間を要した。改めてこういう素晴らしい履物を遠い昔に考案した日本入の発明心に感心する。太陽が頭上を照らしている割に涼しく感じるのは、沢の水音のせいか、あるいは冷たい水の感触のせいか。時にヒヤッとしながらも、どんどん高度を増してゆく沢登りの面白さ。あとわずかで三ノ塔頂上という所で一回目の大休止を取った。太陽をまともに受け、沢の流れを耳に、山が好きという共通点を持つ故に集まった年令も職業も異なる7人の男女が仲良く食事を取る姿、何と健康的なことだろう。充実した幸福感に浸ることができた。
 腹ごしらえを十分整えた後、頂上まで一気に登り、平らな景色の良い所を物色して2回目の大休止。コーヒーで先ず元気をつけ、歌集をひもといて美声を競い合ったりしていると、時の経つのも忘れてしまう。
 そろそろ真夏を思わせた太陽も沈みかけ、夕方の秋風を肌に感ずる頃、下山となる。その前に全員で記念撮影をということで襟元を正して並び、三峰山岳会の旗を広げ、準備万端整ったところで、通りがかりの人にシャッターを押してもらった。これで止めて下山にかかればまともだったものを、誰だろうか「一枚ウント面白いのを撮ろうよ」と言い出したのは。道の真中に肩を組んで一列横隊に並び、運良く通り合わせた女性に申しつけた注文は、チョット凝っていた。「イチニノサンで一斉に左足をあげますからネ、そしたら撮って下さい」提案者も提案者だが、誰も敢えて逆らわずに従ったところをみると、三峰ダンシング・チームでも構成したら、さぞやうけることだろう。
 下山路は面白いくらい足がどんどん進んだ。山を下り切って、バス停に向って単調な広い平地を行くのもまた楽しや。無事に楽しく山行が終了しようとしている時、適度の疲労も、山に行って来たのだという満足感でチョトモ苦にならない。
 この山行で私は三峰山岳会に入って本当に良かった。いや、もっと早く入っていれば良かったのにと心底から感じた。実に楽しい、スマートな山行であった。


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