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初山行
小島 作蔵

 俺の初山行?さあ困った、常日頃記憶力のよろしくない俺のこと、じっと目をつむり(片目ではない)昔を振り返ってみて、今思えば、あれが初山行かなというやつが思い出された。あれは今のように自分のことをオレだのアタシなんぞと言わずボクと言っていた。高校2年生の頃だ。その頃は勉強とクラブ活動のテニスに心を傾むけていた?その年の都民の日学校は休校、珍らしくクラブの練習は休みということで、クラブの悪童連と共に、山にでも行くかッてんで奥多摩の御岳山から日の出山に抜けるコースを選んだ。しかし山への知識は皆無、もちろん山の服装はどんなものなのか知る由もないし、リュックサックなんぞ小学校の低学年か幼稚園の遠足にしか使わぬもんだと思っていたから今思うと随分とキレイなカッコウだった。さてソノ時ノ装束ハ、萌黄縅ノ鎧ヲ着ケ、シゲトウノ弓ヲ小脇ニカカエ金覆輪ノ鞍ヲ置イタ栗毛ノ駿馬ニマタガリ...、とは那須ノ与一だ。我々はそんなに勇ましくはない。ノリのついたワイシャツ、オリメのついた学生ズボン、バスケットシューズに足ごしらえをして、オムスビを入れたフロシキ包をコワキに抱えて。と全く山でみるような姿ではなかった。御岳駅で下車し、バスをケーブルカーの乗車駅で降り、ケーブルカーに乗らず、1時間かけてコンクリートの道を登り、長尾平で一休み、七代の滝へ降りてそこでメシを食べ、どこをどう通ったか知らぬが日の出山まで行った。
 ただその時の静かな山道を気の合った奴らとその頃流行っていた、島倉千代子のアイタイナァアノヒトニとか、春日八郎のナケタナケタとか三波春夫のカッパカラゲテサンドガサとか流行歌をデケェ声で歌いながら歩いたのが今でもはっきりと思い出される。その時、今まで都会それも緑の少い下町で生れ育った俺にとって、山とはこんなに気分を良くするものなのかと、すがすがしい気分になったことが俺を山に関心をもたせたのかも知れぬ。まあそれ以来色々な山に行きました。しかし、その時は自分が今のように、冬山だ、岩だ、なんてェことになるとは思ってもみなかったね。
 俺は未だに、どうして山に行くのか、はっきりわからねえ。まあこんなところで、初山行は、ユルシテヨ、ネッ!イイジャナイ!
 次回は、山敬氏か野田氏にスイッチします。


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