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思い出の山行 鹿島槍ヶ岳天狗尾根
野田 昇秀

 「幕営」初めての冬山幕営でした。「寒いんじゃないだろうか」そんな気持もバーナーに火を点けた瞬間消し飛んでしまった。「暖ったかいなあ、山小屋よりずっと良いじゃないか、狭くたって俺達だけの天国だからなあ」雪の上に寝ることが無性に嬉しかった。
 「雪壁」第一・第二クーロアールの雪壁に一つ一つホールド、スタンスを切りながら登る。「ピッケルは永い間、杖としてしか働らかなかったからなあ」トップでステップを切る楽しさに心を弾ませながら登った。
 「天狗の鼻」おわんを伏せたような丸いピーク。私達は遠慮して隅の方にテントを張る。荒沢とカクネは眼の下に、正面には鹿島槍北壁と荒沢の奥壁、申し分ない展望でした。「きれいだなあ」白と黒の鮮やかなコントラストに、1時間も2時間も山に惹きつけられていた。雪崩を初めて見る、五竜の東面から大きなやつが落ちていった。
 「アタック」雪稜が長く続いていた。荒沢とカクネが一度に見えるナイフリッジを通過して小屋岩下の岩場はアイゼンをガリガリとキシませながら登った。荒沢奥壁を登るクライマーを見ながら山越さんは「今度来る時は壁にしよう」山本さんと話していた。白い雷鳥を見たのも初めてでした。雪稜をぐんぐん登りつめると、鹿島槍北峰に着いた。「きれいだなあ」剣が見えた。立山も五竜も白馬も遠く白く輝いていた。
 「下山」クーロアールの下りも無事過ぎて、大川川に入ると、連日の好天に雪原が融けて、大きな流れが出来ていた。「もう春が来たんだなあ、山には雪が沢山あったのに」
 昭和38年3月の山行でした。
 次は内藤さんにお願いいたします。


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