トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ191号目次

瑞牆山、金峰山
小林 光

山行日 1966年2月6日~7日
メンバー (L)山本(敬)、山本(義)、小林

 登山靴を講入して5日目、早く履きたくて今日の山行が待ち遠しくてならなかった。一度で良いから高度の冬山に足を踏み入れたいと、かねてから念願だったのが、やっと実行されようとしている。経験豊かな両山本さんのこれから行動を共にする顔が頼もしく気恥かしく感ずるのは、山へ入る時の感傷であろうか。真新らしい登山靴には期待と不安さとが重複していた。
 韮崎駅に4時到着。週末なので臨時のバスを期待するが、残念ながら運休とのことであった。バスを待つこと3時間、8時30分増富温泉郷着。身体が寒いので暖かくなった頃、川瀬で朝食を済ませ、瑞牆山荘へ向う。渓流が堅く凍ってゴージャスな美しさを見せてくれた。途中、後からトラックが来て乗せて頂くが、この間のガタガタ車道で振動の激しさに振り落とされないとも限らない、生きた心地がしなかった。やがてスリルともサヨウナラ、山荘に着く。山荘のおばさんの応待の良いのにびっくり。20分休憩後、瑞牆山への登りとなる。
 快晴ではあるが、縦走路は凍って滑り易い。山頂に立つまでは、一歩一歩登る苦しさ、精神と自分との戦いなのである。無論、ピッケルを使って登山するのは初めてである。実に良く滑る。気楽に歩こうとするが、自然と緊張してしまう。
 充分時間があるのでのんびりと登る。富士見小屋を少し登った所で昼食にし、ビタミンCも補給する。回転レシーブとまではいかないが、ウルトラ級にまたも転びとなる。高度が増すにつれ風は強くなる一方、枝に積った雪が飛散し冬山の厳しさを感じさせる。山本御両人は雪の少なさにちょっぴり不腹気味な様子。それでも頂上真近まで来ると雪も多くなっていた。ここで山本(義)さんは尻皮の拾いものをする。私はこれ以上の雪の要求はけしてしない(体力が勢一杯である由に)。
 ようやく山頂に立つ。ようやくのこと登ることの出来た嬉しさは格別。全員で記念撮影と自動シャッターを押すがポーズが完了出来ずに、出来た写真を見て思わずふき出ざずにはいられない。「頭隠して尻隠さず」といった傑作な写真になっていた。
 山頂からの展望を惜しみながら、今来た道を下る。登りと違って滑る率倍加、山本(敬)さんの良き指導のもとに慎重に下山する。履きなれない靴のためもあろう、山荘に着いた時はさすがに足がガクガク、無事に下山出来た安心感は言葉には現しきれない。
 翌朝6時10分山荘を出発。まだ薄暗く風は冷たい。今日も天候は良好。昨日の恐怖心から逃れて今日はアイゼンをつけていただく。もう鬼に金棒である。一気に富士見小屋まで登る。前日はここまで来るのに数回は転んだものでしたが、今日は滑る心配はない。昨日よりも雪は多く、月曜とあって他の登山者は一人もいない。
 大日小屋まで来ると、雪積量も多く寒さは一段と厳しい。大日岩からは銀雪の八ヶ岳、南アルプスの山々を一望に眺め満喫する。寒さに身を震わせる。さすがに予想以上でした。次第に手足の感覚を奪ってくる。
 眼前に金峰山が見えるが足が重く疲労の度を増す。五丈岩で停滞、男性はこれくらいの寒さなど何のその元気で頂上まで行く。一人とり残されて待つ哀れさ、自分自身を慰めた(再び入山したその時は必ずや、山頂まで行きます)。強風をまともに受け急いで下山、2時間30分あまりで山荘に着く。昼食を済ませ山荘を立ち再びバス停へ向う途中山本(敬)さんもアイゼンの紐を拾う。私は何も拾わぬが、拾いもの以上に尊い経験を味わえたことに満足です。すごく純粋な心の美しさにふれた印象に残った山行でした。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ191号目次