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編集後記r
椎名 絹枝

 足の下で、土がうたっているのが聞こえます。しめった黒土が、やわらかくはずんだ春のうたをうたっているのです。
 足の下で、岩がうたっているのが聞こえます。しっかり支える山の岩が、春をことほぐうたをうたっているのです。
 囲り中で風がうたっているのが聞こえます。吹き渡る風が、春の香をまきちらしてうたっているのです。
 頭のうえで呼んでいるのが聞こえます。浅黄色した空が、かがやく雲をうかべて春を呼んでいるのです。
 頭のうえで呼んでいるのが聞こえます。あたたかな太陽が、全てを包んで和ませる春への呼び声をひびかせているのです。
 頭のうえで呼んでいるのが聞こえる。
山が、呼んでいる!
なつかしい春の山が、
木々のこずえの葉裏の白さを見せ
流れる水の底に光をたたえ
ふくらんだ蕾の向うの空と一緒に
なつかしい春の山が
呼んでいるのが聞こえる。


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