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冬山合宿 中央アルプス木曽駒ヶ岳
小島 作蔵

山行日 1966年12月31日~1967年1月3日
メンバー (L)小島、原口、山本(敬)、野田、溝越、別所、五十嵐、山本(義)、鈴木

1966年12月31日(晴)
 暖かい春のような陽射しだ、これが冬山への道だとは、とても思えない。前方遥かに、三の沢岳であろう、適当に雪をつけて、聳えている。昨夜、新宿を佐藤(昇)、佐藤(史)の両名の方に見送られ、出発し、今、今年最後の日を、何の因果か、また山に向って歩いている。
 西部劇調のそれでいて、寒々とした風景の道を過ぎ、敬神の滝を過ぎた頃より、どうにか冬山らしい景色になった。三合目を過ぎ、四合目を過ぎた頃、それまで我慢をしていた腰ががくっと来た。今日の予定は八合目までなんだと頑張るが、時計の回り方に対してピッチがはかどらず、五合目で本日の行程を止めて、ここに幕営する。
 遥か稜線はガスがかかっているが、下界の上松の町の灯が美しく輝いている。今日は大晦日なのだ、あの灯の下ではコタツに入り、一杯やりながら昭和41年を送り、そして新年を迎えようとしているのかと思うと我々の今の状態を考えるや、何か惨めになって来た、サミシィーッ!我々も差し入れして頂いたアルコールを飲む、ウマカッタァ!

1月1日(みぞれ)
 せっかくの元日、みぞれとは情ない、本日は停滞とする。各人各様、ンシュラフに潜り込む者、トランプに興じる者と、思い思いに好きなことをする。この日、我々のテン卜の中で、冬山にしては珍らしい、みぞれの気候のオカシサの為か、怪獣が生れた。暖いコロモに包まれ、何かを言うとノロケル「ヒマラヤ」、何でももらっちゃう「イタダキ」、ヨロコブとウォーッと声を上げ、ウイスキーをゴクゴクとノドをならして飲む「モンドン」そして怪獣の取締りの大怪獣「ノーダラ」等々、口の悪い連中のより集りの為か、一日中笑声が絶えなかった。夕方のニュースで、昭和山岳会の雪崩による遭難事故を聞く。また始まったなッと思った。

1月2日(曇後雪)
 入山の日の行程、そして昨日の停滞の為、当初の計画、空木岳までの縦走を諦め、宮田小屋ベースの三の沢岳アタックに計画を変える。宮田小屋目差して、またまた重荷を担ぐ。六合目を過ぎる頃より雪も深くなり、やっと雪山らしくなった。遠見場を過ぎ、森林限界を越した頃より、周囲がガスり、雪も散らつき、風も出て来た。前岳を過ぎ、九合目の小屋への下り道にかかるや、地吹雪ものすごく視界利かず、顔をそむけて頑張るが、目然の怒りは我々人間を寄せ付けず、悔しいが前岳の風の釆ない所まで引返す。そして、ベースキャンプをそこに決める。我々パーティーの前になり後になり、ついて釆た単独行の女性も我々のテントに入ってもらった。関西山岳会の女性であったが、冬山に独りで来る根性は認めるが、我々の山行の主義からいって同調は出来ぬと思った。要するに無謀登山だと思った。

1月3日(小雪)
 今日も停滞かと思ったり、せめて駒本峰だけでもと思ったりする。晴れればラッシュにて駒→宝剣→三の沢のコースを行なおうと昨夜決めたが、無情の天気の為に、その計画も駄目になった。しかし、このまま停滞する気にもなれず、ついに駒本峰往復をやることにする。ラジオの気象ニュースでは、今日の午後より大荒れになるとのことだったが、我慢出釆ず、原口君にテントキーパーを頼み、トランシーバーで連絡をとりながら登ろうと出発する。雪は時々降ってくるなな、時折、薄日の射す穏やかな天気だった。昨日引返した前岳の下りも、アッというまに下り、1ピッチも掛らずに、駒山頂に到着、視界は全然駄目、しかし、何故か今までのモヤモヤがとれたような気もした。すぐにBCに帰り一休みの後、テント撤収し往路を上松に下山する。途中の霧氷がキレイだった。無事に下山出来る我々はシアワセダナーッ。

 今回の冬山合宿は、選定した場所、日数の関係で、当初下記(1)のようなコース計画をたてたが、天候の関係で下記(2)のようなコースになった。

(1)当初予定コース(12/31~1/4)
12/31 上松→敬神の滝→遠見場(幕)
1/1 遠見場→駒本峰→宝剣岳→檜尾岳(幕)
1/2 檜尾岳→空木岳往復
1/3 檜尾岳→檜尾尾根経由駒ヶ根へ下山
1/4 予備日
(2)実行コース
12/31 上松→敬神の滝→五合目(幕)
1/1 停滞
1/2 五合目→遠見場→前岳(幕)
1/3 前岳→駒本峰往復の後、天幕撤収、上松へ下山

〈コースタイム〉
12/31 上松(9:05) → 一合目(9:45) → 二合目(10:35~11:00) → 敬神の滝(11:40~12:45) → 三合目(13:00) → 四合目(14:15) → 五合目(15:20)
1/1 停滞
1/2 幕営地(8:05) → ラクダの背(8:35) → 六合目(8:45~9:00) → 遠見場(9:35) → 七合目(9:47) → 前岳への分岐(11:15~11:50) → 前岳(12:40) → 九合目手前にて引き返し頂上付近に幕営
1/3 幕営地(7:20) → 九合目(7:30) → 木曽駒頂上(8:00~8:15) → 幕営地(8:40~12:35) → 上松駅(17:50)

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