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爺岳東尾根から鹿島槍ヶ岳
野田 昇秀

山行日 1967年3月18日~20日
メンバー (L)野田、山本(義)、鈴木

 予想もしなかった雨に見舞われ憂鬱でした。鹿島部落の狩野さん宅に上り込んで、入山届を1枚1枚めくっていても窓を叩く雨音を気にしていた。「だめか」、そう考えてしまう程降り続いていた。一日だけでも晴れて、いやせめて一目だけでも鹿島槍を見れれば私は満足するのだけども、と祈る気持で出発していった。
 大久保沢を少し下りダムの所から石側の急斜面に取り付いて稜線に出ると雪の斜面にかすかなトレースが続いていた。赤布に導かれながら一歩一歩足場を作りながら登っていった。雨は雪に変ってくれたが、風が吹き始めた。1,500mPを過ぎてなだらかな森林帯を過ぎるとすぐ1,766mPである。雪稜に変った痩せ尾根に出ると小冷沢側から吹き上げる強風にまともに叩かれた。よそう、そう決めると一目散に森林帯の中に逃げ込んでBCを設営した。風は一晩中テントを叩いていた。朝テントから顔を出すと満天の星、快晴である。BCが予定よりかなり下だったためにビバークを覚悟してザックの中にバーナー、ローソク、エアーマット、スコップ、食糧二日分を押込んで出発した。爺岳まで高度差900mの登り、冷乗越まで200mの下り、鹿島槍まで600mの登りをして帰路は同じ道を帰らなければならなかった。ひどい所をアプローチに選んだものだと後悔してみてももう遅かった。昨日引き返した雪稜を過ぎると目の前に真白に雪をまとった爺岳が現れ鹿島槍ヶ岳も右手はるか遠くに見えた。
 強風に叩かれていても、急坂の登りに汗を流していても、心の中は楽しかった。ああやっぱり山はいいなあ!一人悦に入りながら登っていた。1,970mPとJPの間はナイフリッジが続いていたが、ザイルを出す程ではなかった。唯吹上げる強風に注心しながら慎重に登った。JPから先はなだらかな雪の大斜面を登って爺岳の主峰に辿り着いた。槍、穂高から剱、立山と続く北アの山脈も一望のうちでした。食事を摂るとすぐに、稜線沿いに冷乗越を経て冷小屋まで行った。絶え間ない強風に体を叩かれてかなり疲労していたが、憧れの鹿島目指して登り出す。布引岳を過ぎて南峰への登りは歯をくいしばって足を運んだ。やっとの思いで頂上に着く。ありがとう、3人で交わす握手にも感激はなかった。寒さと風で顔が歪んでしまう程でしたし、帰路の遠さを考えると憂鬱でした。爺岳が遠くにまた高く見えた。あそこまでまた登らなければならない。30分程休んでから下山していった。もう右側の剱も、立山もない。黒部川から吹き上げる強風に顔をそむけて下ばかり見て歩いた。爺岳の主峰に辿り着いて東尾根の下りにかかると、今日中にBCに入れる見通しがついたので、もうのんびり、夕日に照らされた爺岳を幾度となく振り返りながらBCに入った。
 翌日、10時まで朝寝を楽しんでから風もなく快晴の青空の中を汗を流しながら下山していった。今日は春山だなあ!昨日は冬山だったけれどもと、真赤に日焼けした頼もしい山男、山木義、鈴木両君と話しながら狩野山荘目指して駆け下りて行った。

〈コースタイム〉
3/18 雨後雪 狩野山荘(9:10) → 1,677mP(13:15)
3/19 快晴強風 BC(6:00) → JP(8:05) → 爺岳主峰(9:00~9:30) → 冷小屋(10:20~10:40) → 布引山(11:35) → 鹿島槍ヶ岳(12:15~12:40) → 冷小屋(13:30) → 爺岳主峰(15:00) → BC(16:50)
3/20 BC(11:00) → 狩野山荘(12:00) → 源汲(12:30)

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