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夏山合宿 妙高縦走
今村 信彦
播磨 忠
鈴木 嶽雄
小島 作蔵

山行日 1967年8月5日~8日
メンバー 溝越、鈴木、佐藤(史)、小島、播磨、別所、菅谷、小林、山本(義)、今村

8月5日 晴のち雨 (記録: 今村)
 多くの人々の見送りを後に満員列車で上野を発つ。そして蒸し暑い車内、しかし運が良いのか図々しいのか、扇風機の真下で横になることができた。高崎を過ぎ長野まで全くの夢の中であった。田口駅で下車、朝の冷気が身に染みる。2日ほど前より下痢していたのを無理押しして来たため何とはなしに不安だ。でも、何とかなりそうだ。これだけ荷が軽ければ。だって鍋が三つだけだったからです。あまり軽い軽いと言って、皆さんに何か持ちましょうかなんて、とってもじゃないけどそのようなことを言う勇気などありませんでした。
 燕温泉でバスを降りるとすぐに歩き出す。大倉沢沿いの平坦路を15分、ここで朝飯だ。そして水、水がない。また例によってジャンケンが始まる。皆、真剣そのものだ。何しろ、今来た道を戻るという訳なのだから。2人を選ぶ。腹ごしらえを済ませ、いよいよ登高開始。ただ黙々と歩くのみ。汗ばかり出る。ピッチが上がらない。そして、大分登ったかと思う頃下りが始まった。実にもったいないことである。下りも間もなく終わると沢を渡る。ここで小休止。ふと左を見ると燕温泉近道と書いてある。コンチクショウ、近道があったのかと言っても後の祭りである。この沢の水は鉄分が多く、不味いが飲める。これより、胸突八丁の登りとなる。またまた黙々登る。そして小1時間、やっと天狗堂に着くことができた。ここで昼飯だ。蒸し暑く、汚らしく、そして根曲り竹で座り心地の悪い場所での食事、それでも食欲は充分。でも、水はとうとう底をついてしまった。そしてこの水争いは、今日一日が終わるまで続きました。なぜなら、水筒を持って来ない者の方が多く飲むとかで...。しかし、食欲があったのにどういう訳か休んでいるうちに急に疲れが出、そして別所さんのエアーマットのように力がどんどん抜けていくようです。これより山頂まで高低差500m。ただ苦しかったのみ、途中にナントカという沼があったとかないとか。見たような気がします。それでも、こんな苦しさの中でも自分と同じ苦しみ、いや精神的にはそれ以上に苦しんでいる小島さんという仲間が居たことが、何よりの慰めでした。山頂にてキュウリ半本、梨半個、飢えた腹に堪える。これより先、しばらく下りが続くと思うと憂鬱だ。しかも下が見えているからやりきれない。嫌らしい下りが続く。膝を痛めている山本さんが痛々しい。予定より相当遅れ、今日の宿泊地の髙谷池まで行くには体力的にも時間的にも無理なので長助池とする。ここは水場に少し遠いが、高山的雰囲気のするナナカマド、ダケカンバに囲まれた広々とした湿原はちょっとした別天地だ。すごく快適な泊り場だが蚊に悩まされたのには閉口。蚊の吸った血で黄色い天幕が染まるほど。

8月6日 曇時々晴 (記録: 播磨)
 夜半過ぎテントを叩く雨の音を聞いたが今日は晴れて欲しいものだと夢うつつで考える。昨日夕方から降り出したものだが、意地の悪い雨だ、チクショウ!こうなると気分も落ちる一方だ、食欲の出ない朝食をみそ汁で無理に詰め込み天幕の撤収にかかる。しかし、この頃から雨も上がり北東の方面から青空らしいものが見え出してくる。
 都合で急に予定を変えて、今日燕温泉に下山する山本、今村両君とモートーを交わし本日最初のアルバイト、雨で滑り易い道を大倉乗越まで登る頃には、大分青空も広がってきて目前には昨日越えてきた妙高山頂、目を転ずれば今日これから行く火打山が、思ったより遠くに望まれる。「火打は正午だな」「もっと早く着かないかな」こうなると現金なもので、会話も自然と弾んでくる。
「さあ出発だ!」
 黒沢池の緑のカーペットを越え、一汗かいて高谷池着、昨日はここまで来る予定だったが池の周りには柵がしてあって、立て札に「立入禁止」寂しいね!こうまでしなくては自然が守れないとは、黒沢池もいずれはこの運命か?
 高谷池からは天狗の庭を経て火打山へ1ピッチで山頂へ、高谷池から1時間15分の登りでした。山頂からの展望は残念ながらあまり良いとは言えず、日本海側に白い雲がいっぱいで、それが時折山頂を包むように超えて行く。雲の切れ間から辛うじて戸隠、高妻山方面が望めるだけである。ここで昼食後、本日笹ヶ峰牧場に下山の菅谷君、小林さんに別れを告げ我々は先を急ぐ。2、3のピークを越えキレット目掛けて急降下、山頂から高低差450m下って、また焼山まで400mを登り返す訳だが、重荷の我々は木の根、岩角に頼って慎重に下る。キレットでの休憩は日本海側からの涼風が肌にしみる。いよいよ焼山の登りにかかる。2ピッチ1時間少々で大した苦労もなく山頂着。山頂は相変わらず雲が多く展望は得られなかった。
 最初の予定では、本日は金山まで行くことになっているのだが、初日に予定が外れたので今日は泊岩に幕営。山頂から岩峰を2、3越えガラ場を下り樹林帯に入って間もなく泊岩に到着。水場探しに少々苦労させられたが快適な一夜をおくることができた。夜に入って気温が急激に下がり、明日の好天を約束してくれるようであった。

8月7日 (記録: 鈴木)
 朝はすごく寒かった。4時頃、別所さんが飛び起きバーナーに火を点ける。飯を食べてから一人でもう一度、焼山に急いで登る。火口からガラ場を山頂に出ると目の前に昨日越えてきた火打山や妙高山がシルエットになり、黒姫山と戸隠山の間に遠く八ヶ岳まで見える。更に右に金山、雨飾山、海谷山塊があり、その後方には北アルプスが輝いていた。今日からが本当の夏山だ、我々は心がけが良いらしい。さて、皆のいる泊岩目掛けて一目散に下る。泊岩に着くと別所さんは笹倉温泉に下った後だった。早々に荷物をまとめて出発。播磨さんも今日下るが、金山まで往復するので一緒に行く。少し行くと沢になり右は笹倉、我々は左の金山へと進む、富士見峠で笹ヶ峰道を分ける。この辺からの平坦なる尾根道は高山植物が今を盛りと咲き競っている。シナノキンバイ、ハクサンフウロ、カライト草、ニッコウキスゲ、水キボシなどの花の中を右に海谷山塊のゴツゴツの山々を見ながら行く。金山よりの尾根で一服、雪渓の水を飲みに一寸下る。播磨さんが時間がないので引き返す。これで最後の4人だけとなる。一汗かいて笹の中の金山三角点に着く。
 金山から天狗原山にかけてはお花畑、雪渓があり山上の楽園である。播磨さんには気の毒だが時間のある我々は山上散歩。チングルマ、ハクサンコザクラが可憐な花をつけている。池塘のある原っぱで昼寝と食事。しばらくして三角点に戻り、思いキスリングを背に繁倉尾根を下る。目の下だった雨飾山もグングン大きくなる。途中、前から来るパーティに遭い「道の真中に蜂の巣があり、我々の前を行った連中が刺された」との話だった。しばらく行くと、なるほど蜂がブンブンしている巣の穴の所まで静かに行き蜂の巣を踏みつけて逃げてきた、蜂の巣を越えて一安心、急に腹が減る。一休み、蜂蜜でフランスパンをかじる。
 鞍部は意外に長く4~5個のコブがあり、粉末ジュースで一休み、テントを張るには良い所。いよいよ最後の急登、根曲り竹の中の道を四つん這いの大奮闘、ようやく飛び出した所が雨飾山の肩、笹峠にキスリングを置いて草原の中を山頂目指す。足元にはシモツケ草、ワガイ草、タテヤマウツボ草、タカネナデシコ、ヤマトリカブト、シシウドなど千変万化、花の賑やかさの中を行き最後の急登で山頂に出る。峠から15分。頂上は大きなケルンがあり、石仏や石社もあった。静かな山頂は我々4人だけのものであった。どこの山に登っても人臭いこの頃、本当の山がここにあるような気がして嬉しかった。
 今日歩いてきた金山の後には焼山が頭を出していた。また、反対には白馬連山が一段と近くに見えた。雨飾山に別れを惜しみつつ下る。笹峠からしばらく下ると沢状の道になり、暗い中の池に着く。どす黒い水中にはクロヤキ(サンショウウオ)がうようよしている。しばらく下り海谷山塊の鋸岳、鬼ヶ面山の良く見える尾根上で一服。最後我々は完全にバテていた。シュッシュッ、ハアハアやっとこすっとこ梶山新湯に着く。空は暗くなっていた。煌めく星の下で晩飯を作り、一風呂浴びてビールで乾杯、実にうまい。明治時代からの落書きがある部屋のランプの灯を消した。

8月8日(晴) (記録: 小島)
 暑く、そして俺にとっては辛かった夏山合宿も昨日で終了したようなものだった。今日はあるき良い山道を下るだけである。
 昨日までの疲れのためか、それとも畳の上で寝たので気持ちが緩んだのか、何をするにも億劫である。朝食の準備を全面的に佐藤さんに頼んで、俺を含む野郎どもは朝の温泉に浸かったり、部屋の中に記されている明治時代から現代までの100年に渡る落書きを読んだりしてゴロゴロする。朝食後、静かな山中の温泉宿を後にして、再びザックを背にし海谷山塊三山の見守る中を次第に暑くなる陽射しを浴びて山口部落へと下った。

夏山合宿を終えて
小島 作蔵

 久しぶりの縦走合宿、重荷を背負っての長期の行動は、このところ定着合宿が多かったためか疲れた(一口に言って)。反面、技術的には困難なところがなく、気疲れするということがなかったので、かなりのんびりムードが楽しめたような気がした。それに静かで高山植物が沢山あり(中には高山植物とは関係のない人が少なくとも2人はいたが)、今までの夏山の印象とは違った。趣があったということは何か嬉しかった。また、食料計画を女性に全てやってもらったこと、これなどは今までのメニューとは違ったものが食べられて誠に結構だったと思う。正にケッコウ毛だらけ、猫灰だらけ...。
 それにだ、最終日には温泉なんぞに入れるようなコースを選んで計画を立ててくれた係殿、実に泣かせるではないのよ...。色々な面で今回、合宿もうまくいったね!


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