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おはなし
五十嵐 絹枝

 春になると、お日様が南から北へ少しずつ登ってきますね。すると小鳥たちもお日様と一緒に温かい南の国から渡ってくるのです。
 私たちの町にも春の最初の光が射してきましたよ。ほら、蕗のとうが光っているでしょう、小鳥の歌も聞こえるわね。
 野原には色々なお花が咲いてとてもきれい。まあなんと賑やかなことでしょう。
 おや、向こうに見える高いお山はどうしたのかしら。まだ白い雪を頭からすっぽり被って、真冬のようね、お日様は山に春をあげるのをわすれてしまったのでしょうか。
 いいえ、やまにも春はちゃんと来ていました、お日様は山も忘れはしなかったのね。
 そっと耳を澄ましてごらんなさい、どこからか低い轟が聞こえてくるでしょう。あれは雪崩の音なのよ。お日様が山の雪を崩して谷に落としている音。谷はたちまち、雪の塊に埋められてしまうの。
 お隣の山を見てごらん、もうあんなに黒い岩や土が見えているでしょう。まるで白と黒のモザイクのようね。あの山の沢には雪融け水が一日、一日と量を増やしながら流れているのです。沢の縁にはいたどり、やまうど、さんしょう、まだまだ沢山の山の木の芽が元気に顔をだしているのよ。もうしばらくすると桜が咲きますね、小梨の花もみんな一度に開きます。
 これから一日ましに暖かくなって、そして夏がくる頃、あのお山の雪も白い何本かの縞になって残るだけになるでしょう。その頃山は可愛い草花でいっぱいになるのです。
 そう、夏になったら山のお花畑を見に行きましょうね、きっと。


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