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夏山合宿 飯豊連峰
今村 信彦

山行日 1968年8月3日~7日
メンバー 小島、溝越、播磨、菅谷、今村、鈴木、山本(義)

 前日、予定を早め、昼過ぎ集合地である越後下関駅に着き、駅前の案内図を見ていると、大石から杁差岳への登山道はすべて入山禁止とあり、少し慌てさせる。役場で問い合わせれば、昨年の羽越豪雨により橋の流失、山崩れ等がひどく、危険だという。急いで東京と電話連絡をし、山都より入山することにした。夜遅く、グロッキー気味で山都駅に着き皆の来るのを待つ。

8月3日(晴れ後雨)
 何かはっきりしない天気の中を登山者で満員のバスは一の木へ向う。終点よりトラックで飯豊鉱泉へ。この鉱泉で朝食を頼むが、これから飯を炊くので時間がかかるという、仕方がないので味噌汁だけ注文する。ナメコと玉ねぎがふんだんに入った豪勢なものだ。
 ゆっくり休んでいるうちに、他のパーティーは皆行ってしまい最後となる。御沢小屋までハイピッチで飛ばす。味噌汁くさい汗がひどい。いよいよこれより地蔵岳への急登が始まる。胸を突くような登りだ。風が全くなく、蒸し暑くたまらない。中十五里までただ黙々と歩いた。この1ピッチが非常に辛い。あい変らずの急坂は沢を小さくしたような溝状となり、特大のキスリングは岩に挟まれ苦闘する。雨が降りだし、そして雷も鳴っている。横峰に着く。ほとんどのパーティーは天幕を張っている。もう地蔵岳は眼前だが、雷が気にかかる。地蔵を越え最後の急登で三国岳だ。
 岩場も所々ある尾根道は低木帯となり、ガスがなければ素晴らしい展望なのだろう。出発時、切合まで入るのはとても無理だと言われ、今日は地蔵までと弱気を吐いていたが、とうとう目的地が真近になってきた。この三国岳には腐りかけた木造の山小屋が建っている。
 一瞬見えかけた山肌もガスでもう見えない。切合までの道は思ったより小さなピークが数多く長く感じる。何も見えない稜線も色鮮やかな高山植物と豊富な残雪が唯一の慰めだ。
 切合の天幕場は水場も近く快適だが、ブヨの大群に閉口した。

8月4日(ガス後風雨)
 朝4時、食当のため山本さんと共に起きる。天気が良さそうである。眼前には大日岳が、そして残雪多い尾根が望まれる。しかし、この天気は飯豊神社に着いた頃には、ガスってしまい、何も見えない。霧中、本山を越え御西へ向う。
 視界が利かないためか、ぺースが早くなる。残雪の多いせいか、ぬかるみが多い。御西小屋が霧の中より忽然と現れた。先ずは小屋に入り、今後の行動を協議する。
 ひとまず大日岳へ、空身で往復する。途中にあるはずの文平の池などガスで全く見えない。ガスにも小雨がまざり風も強くなる一方だ。こうも天気が悪ければ奥多摩と同じだ、などとぼやいている者もいる。雨が降り風も強まり、悪くなる一方だ。
 結局、今日はここに留まり、明日に期待をかけることにする。あの風の音はまるで冬山なみだ。

8月5日(ガス・風強し)
 今日こそはという期待が無残にやぶられ、外は小雨混じる風が不気味に吹いている。
 今日中に下らなければならぬという、播磨さんは日出屋に向い、先に小屋を出発する。出発時には雨が上がり、快適なピッチで飛ばす。高山植物以外見えるものがないので自然足も早くなる一方だ。なんとなく鳥帽子、力イラギ岳を越えると、またも霧の中より忽然と小屋が現れる。これが。カイラギ沢の分岐点にあるカイラギ小屋だ。ひとまず小屋の中で休む。意外なことにこの小屋、床はきれいだし、落書きが一つもなく、二重窓のついた立派な小屋だ。
 天気の回復の見込みなし、これ以上霧中、ただ歩くだけではつまらぬと、ここでまたもや明日に期待をかけることにする。
 夕暮れ前、一瞬カイラギ沢方面が開ける。これが最後の展望となってしまった。

8月6日(ガス後一時雨)
 最後の望みも断ち切られてしまった。ガスがひどく風も強い。自然と気持ちも暗くなる。霧中、縦走しても意味がないので湯ノ平に下って野天風呂にでも浸かろうということになる。北股岳からはネマガリ竹の中の滑り易い急勾配の下りだ。そうして雪渓に突き当る。「また、ヤッチャッタヨー」と声がかかる。急峻な嫌らしい草つきのトラバスースで道に出る。またも滑り易い急勾配の下りで、どんどん高度を下げる。
 天気というものは皮肉なもので、山を下れば下るほどに良くなっていくようだ。今まで見えなかった主稜も徐々に見えてくる。残念でたまらない。湯ノ平で早速風呂に入り山の汚れを落とす。ついでに着ているものも全部洗い、乾くのを待つ。今までの張りつめていた気持と力はこの温泉によって、すっかり出し尽くしてしまった。

5月7日(晴)
 東赤谷まで5時間だと言われ、トラックはないという。ほとんどが林道歩きだ。下山日に限って快晴とは、何とも皮肉だ。暑くてたまらないだけだ。そして縦走中ほとんど見ることのできなかった飯豊山が今日に限って見えるとは...。どんどん小さくなってゆく飯豊連峰!!
 太陽がギラギラ照りつける林逍をハイピッチで下る。鉱山を過ぎ東赤谷に近づいた時、石を満載した小型トラックに便乗し、東赤谷駅に着く。あまりの天気なので新発田駅で東京に帰る三峰の仲間と別れ、一人朝日岳へ向う。

〈コースタイム〉
8/3 山都(7:55) → 一の木(8:30~8:40) → 飯豊鉱泉(9:10~10:50) → 中十五里(12:30~13:30) → 横峰(14:25~15:00) → 地蔵岳(15:25~16:00) → 三国岳(16:45~17:15) → 切合小屋(18:00)
8/4 切合(6:20) → 飯豊神社(7:55~8:30) → 御西小屋(9:25~10:55) → 大日岳(11:45~12:00) → 御西小屋(12:40)
8/5 御西小屋(7:00) → 御手洗池(7:40~8:05) → 鳥帽子岳(8:45~9:15) → カイラギ小屋(9:40)
8/6 カイラギ小屋(7:50) → 北股岳(8:10~8:20) → 中峰(9:45) → 湯ノ平(12:00)
8/7 湯ノ平(6:10) → 飯豊ダム(7:10~7:40) → 東赤谷駅(10:25)

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