トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ210号目次

深沢不動
鈴木 嶽雄

 初めて山に登ったのは小学校へ入る前頃、家の祖母とお参りに深沢不動に登ったっけ。
 家を出て馬見ヶ崎川の橋を渡り、鈴川や山家(やんべ)部落を過ぎると緩い登りの林道を行くようになる。一登りで切通しの峠のような所で一休み。
 また歩き出すと高原部落からの道が左から入る、単調な長い登り、頭の上では夏の日の太陽がカンカン照りだった。一汗も二汗もかきながら行くと林道から細いやや急な参道になる。沢沿いは老杉木が茂り太陽の光も直接は届かず涼しかった。苔の付いた階段状の道を鎖の手摺を頼りに一歩一歩登るとやがてお不動様に着いた。
 お参りをして昼飯のおにぎりが美味しかったな。お堂の裏の沢状の岩棚には怖い顔をした石不動が数体並び、こっちを睨んでいた。祖母の話によると、「その昔、深沢不動は目の神様で、良い目薬などなかった時代、お不動様の水で目を洗い、お参りをして剣や石不動あるいは女の人の長い髪の毛を奉納した信仰の場で、昔は相当栄えたもんだそうだ」
 今でもお堂の裏の戸板には、長い髪の毛や錆びた剣などがあり、子供心に薄気味悪い所だった。
 帰りはまた同じところを下る、山鳩が杉の梢で鳴いていた。下のお不動様を守る別当のじいさんの所で祖母は世間話をしてた。甘酒を飲んでから太陽の照る林道をキツネのコウモリなる草を手に摘んだり、家に飼っていた兎の草を刈ったりしながら、道草をしながら下る。
 山家部落で当時3円也のアイス・キャンデーを買ってもらってご機嫌だったな。
 山と言っても海抜400mくらい、往復距離にして15キロくらいだと思う。おしまいです。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ210号目次