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雲の平
松本 順子

山行日 1971年7月24日~28日
メンバー 松本

7月24日
 富山駅に着いたら激しい雨が降っていた。立山アルペンルートが開通したせいか、年配の人、子供連れ、そしてホットパンツのハイカーで電車の中は酷い混雑だった。土砂崩れのためバスは折立まで入らず、有峰で下車。雨の中ゾロゾロ長い林道を折立に向かう。折立で食事を摂り、雨も上がったので出発。樹林の登りが続く。急登を登り終わると三角点に出て、薬師岳が目の前に出てきて圧倒される。行く手には北アルプスとは思えないほどの草付の台地が続く。天候は悪くガスってきたので急ぐ。緩い登り下りを繰り返し太郎平小屋に着く。小屋の近くに来てKさんが大声で呼ぶ。「今夜のおかずはカレーだヨ」なるほど、私の鼻にも届いてきた。
7月25日
 小屋の左横より薬師沢に下る尾根に入る。低い樹林帯のジグザグの急降下が終わると薬師沢に出る。昨日雨が降ったためか、水量が多くて渡れず枯木を運んで丸木橋を作る。しばらく沢沿いに下り右岸に渡った道は沢を離れ高巻きの道を行く。道は湿地状で酷いぬかるみで歩きづらい。薬師沢合流点で鉄橋を渡り、鉄の階段を7段ほど降り河原に立つ。
 赤ペンキに従うといきなり樹林の中への急登が始まる。沢の音が次第に遠くなるにつれ木の根、岩角に掴まるような登りが辛くなってきた。3名ほどバテてしまい4人が先に行く。やっとの思いで這松の中に出ると黒部五郎岳や薬師岳が大きく目の中に入ってきた。道は泥んこで嫌になる。少し行くとアラスカ庭園という指導標があるが泥の平と命名。期待していたほど素晴らしくなく、池塘と這松と泥んこに気を付けながら赤い屋根の雲の平山荘を目指して急ぐ。
7月26日
 台風23号による風雨のため停滞。男性は朝からアルコールを飲み山話に花を咲かせ、女性はトランプにうつつをぬかして夜となる。雲の平山荘を賄っている若者達の何と態度の悪い応対だこと。
7月27日
 朝からとても良い天気。昨日までガスって一面白い世界だったのが嘘のように青々と山々が朝日に照らされてゆく。水晶岳、祖父岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳、薬師岳、そして遠くに朝日を浴びた笠ヶ岳が美しい裾をひいている。皆ソワソワし慌てるように小屋を出る。雲一つない空の下、祖父岳の雪渓をトラバースした所が日本庭園で這松の中を歩く。いきなりトップのTさんが立ち止まる。「槍ヶ岳と穂高だ!」日本庭園から望める山々...背中を向けている遠くの山は立山連山、目の前に槍ヶ岳、穂高連峰、大天井岳、常念山脈、右手には薬師岳、黒部五郎岳、左には鷲羽岳が大きい。お天気は申し分なく晴れあがり、しばらく写真を撮るのに忙しい。これより黒部源流への急な下り。周りの山々に気を取られ滑ること頻繁。下り切って雪渓の上を渡って左岸に行き、急な登りをしばらく行って這松の中に出ると三俣山荘は近い。この辺りから一段と鷲羽岳が大きく端正な形で雄々しい。三俣山荘よりいよいよ三俣蓮華岳への登りが続く。今まで歩いて来た道と違ってザレた登山道で歩き易い。三俣の山頂でどういう訳か急に一面ガスって何も見えなくなる。「アーア、やんなっちゃう!」不平不満を言いながら下った雪渓の下にあるお花畑の中で、子連れの雷鳥を発見。「ライチョウってもっと太っていた筈なのに、このライチョウは痩せているのネエ」と本物をしばらく見つめる。子供は何でも可愛い...。三俣蓮華岳の雪田からは中腹を巻く道を行く。お天気も良く、お花畑の中を歩き展望もすこぶる良く、鷲羽岳、硫黄岳、北鎌尾根、槍ヶ岳、穂高連峰の眺めのいい道を行く。やがて樅沢岳が見えてくると急な下りとなり双六小屋の脇に出る。天候も少し曇ってきたので小池新道を下る。しばらく山腹を巻く道が長々と続き、やっと大ノマ乗越に着くと、急なガラ場の下りで膝が笑っている人もいた。左渓谷では発破作業をしており赤ペンキが急になくなってしまい慌てる。うろうろして探したら何と酷く高い所に巻き道があった。ワサビ平にはマイクロバスが待っていたため大いに助かり、蒲田温泉で汗を流し、山行成功の乾杯、そして夜更けまで騒ぐ。
7月28日
 蒲田より高山までバスの中の静かなこと!
 あれほど憧れていた雲の平も泥の平としての思い出しかなく、日本庭園から眺めた槍ヶ岳、穂高連峰の展望の良さに圧倒され、二日続きのカレーライスにうんざりし、フィルムをなくしてションボリ...。


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