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袈裟丸山~皇海山
川田 昭一

山行日 1971年10月16日~18日
メンバー 川田、山本、杉原

 秋雨前線が影響して、東京では33年ぶりという長雨もようやく峠を越して、快い気分で午後6時30分の急行に乗り上野を出る。夕方にかけて出る列車で山行するのもまた何年ぶりだろう。高崎、桐生と列車を乗り換え、足尾線の沢入駅に午後10時10分に降り、駅員に交渉して待合室に泊めてもらう。東京では決して見られぬ星の数だ。それだけに朝の冷込みは厳しかった。
10月16日
 駅よりバラ沢林道を登り途中から塔の沢林道に入る。塔の沢林道も500mくらい行くとそこで終り後は塔の沢沿いにつけられたよく踏まれた山道を、沢の源流まで登り詰める。登り終える少し手前に立派な卜夕ン作りの小屋があり、道はその横を通り、賽の河原と言う展望の良く効く平地に出る。上州の赤城山が正面に見え右側に目指す前ササ丸山、大ケサ丸山は秋の日ざしが紅葉した山膚に溶けて絵の具ではとても出せない美しさを持って聳えている。
 賽の河原で日ざしをいっぱいに浴びて昼食を摂る。荷が重いせいか腹の中によく食い物が入る。賽の河原にて大休止の後よく踏まれた道を途中見はらしの良い小丸のピークを越えて熊笹の道に下る。小丸とケサ丸とのコルで左側に小屋があると聞いて来たがそれらしい物は見当らずにケサ丸のピーク直下の最後の取付点まで来てしまう。取付点よりピークの登りは倒木あり藪ありおまけに急登ときている。空腹を我慢してキスリングを上げる。ケサ丸ピークは5坪ほどの広さを持った平地で特に群馬側の展望は良く、上州武尊、赤城苗場の山々が視界に入る。10分間の休みを取り次のピーク大ケサ(後ケサ)へ向う為コルヘの下りとなる。道は火口壁がストレートに上州側に落ち込んでいる淵ぎりぎりの所を忠実に下っている。下りきったコルは八段ばりのたるみという所で、そこから大ケサヘは大した登りも無く、1989mの三角点に着く。大ケサのピークでは休まずすぐ八人枕のコルまで一気に下る。群馬側のスロープが滑らかで原生林が生茂る八人枕のコルは所々にテント地があり、また縦走路から下り1分の所に水場があるという格好な場所である。休みをぬいて実動8時間の縦走である。あーっ!疲れた。今日は八人枕のコルで幕営と決込みすぐ準備にとりかかる。アルコールで体を清め、更に飲んで体を温め、その後すぐ出来たての黒岩汁で明日のスタミナ作りといく。
10月17日
 朝4時起床。7時にテント場を出発。すぐ踏跡がはっきりしない笹藪を漕いで奥ケサのピークに向けて急登が始まる。踏跡は無いが見通しが良いので上州側になるべく寄って高い所高い所へと見当つけて登る。すぐ奥ケサの見はらしの悪い木々に囲まれたピークに立つ。このピークから彦岩岳(1958m)までは忠実に上州側に沿ってかすかな踏跡が続いている。彦岩岳の付近は原生林に覆われて見通しが悪い。休まず、次のピーク法師岳(1950m)に向かう。藪の深い下りを下切ると平らな原生林のコル状の所に立つ。道が完全に消えて笹がやたらと多く薄暗い所だ。群馬側へは寄らないで忠実に上州側へと藪を漕ぎながら緩い登りを進む。霧がかかったら迷い易い所だ。更に進んで法師岳ピーク直下のコル付近も笹藪が多く道もはっきりしていなく迷い易い。このコルから藪を抜け左に原へ下る指導標を見て直ぐ明るいがあまり展望の利かない法師岳に立つ。食事もそこそこに緩く下る。相変わらず藪が多く嫌になる。しかし、あくまでも藪が行く手を阻む。男山(1869m)付近では藪はまだ続くが森林帯からは解放され目指す鋸山、皇海が大きく目に入ってくる。逆に後ろを振り向くと縦走を終えてきた袈裟丸連山が遠くに見えるようになった。藪で埋もれた六林班峠の指導標を左に見て鋸山の登りにかかる。鋸山までは三つくらいのピークを越えて頂に立った。ここで皇海から来たという平均年令35才くらいの女性(おばさん達と言った方が早い)4人パーティに遭う。我々と逆コースを取って袈裟丸に向かうそうだ。あの年令で、あのファイト、モーレツおばさん達と思った。ここでものんびりせず、鋸山と皇海とのコル目がけて急な下りを始める。凄い下りだ。この下りに負けずに皇海の登りもきつい。キスリングの重さはそんなに感じないが腹がやたらと減りとうとう登りの途中で腹ごしらえをる。この辺りまで来て気が付いたことは、鋸山からは道が大変良くなったということだ。体力の消耗は半分で済む。腹ごしらえの後、一気に登り皇海のピークに立つ。皇海のピークでは木立越しにしか見えなかった日光白根も、皇海のピークから群馬側に向けて延びる急な尾根の途中から望める。白根は確かにでかい。またその手前に聳える錫ヶ岳もどっしりした山容を持っている。急な尾根から目を右下に向けると小さく今日のテント場、国境平の白砂地が周りの紅葉から色分かれてはっきり見られる。皇海の急な尾根道から外れて国境平目がけて右にトラバース気味に下る。国境平は尾根筋から見た通り、白砂地と這松が点々とする見晴らしの良い所だ。周りが静かでそのせいか鹿の鳴き声があちらの谷、こちらの谷から聞こえてくるという全くのどかな所だ。水場は少し遠く下り5分、登り10分の沢で求められるが全然苦にならない。テントが数多く張れる平場が沢山ある。
10月18日
 起床5時、夜半にかけて降り出した前線通過の雨も、起きた時には止んでテントの中に陽が差し込んでくる爽やかな朝だ。テント場から望むと錫ヶ岳、更に白根山の頂上付近は薄っすらと雪で覆われていた。テントを撤収して今日は下山だ。松木沢の支流、濁沢に向けて紅葉尾根の滑らかなスロープを下る。確かに綺麗に色づいた紅葉が多い尾根で、あまり背が高くない。紅葉の林に付けられた下り道は良く踏まれて濁沢に下っている。沢に近づくにつれ滑らかなスロープから一変して物凄い下りとなって沢身に立つ。そこには黄色のペンキで「紅葉尾根より国境平へ1時間30分」と記された指導石がある。逆に松木沢より登ってきた場合に登り口を探さずに済むという点では有難い指導石である。濁沢より30分で松木沢本流に出る。ここにも立派な黄色のペンキで書かれた指導石があった。少し休んで松木沢を下り始める。何回くらい渡渉したかわからないが、松木沢が増水したら難しいと思う。途中からダム建設用として作られた林道に入り下り続ける。三点合流ダムを通るころ道はコンクリート道路になり足尾精錬所の傍を通って赤倉の町に入る。この町からバスに乗り通洞駅前入口にて下車。完全縦走無事下山という名目で飲んで祝う。

〈コースタイム〉
10/16 沢入駅(5:25) → 相輪塔(8:40) → 避難小屋(9:35~9:40) → 賽の河原(9:50~10:40) → 小丸(11:40~11:50) → 袈裟丸直下の取付(12:30~12:50) → 前袈裟(13:15~13:20) → 後袈裟(13:55) → 八人枕のコル(14:20)
10/17 八人枕のコル(6:55) → 後袈裟(7:05) → 彦岩岳(8:15) → 法師岳(9:30~10:00) → 六林班峠(11:00~11:10) → 鋸山(12:55) → 皇海と鋸山のコル(13:35~13:55) → 皇海山(14:30~14:45) → 国境平(16:00)
10/18 国境平(8:00) → 濁沢(8:30) → 松木沢との出合(8:50~9:00) → 第四ダム(11:40) → 赤倉13:30)

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