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帝釈山脈縦走
鈴木 嶽雄

山行日 1971年9月23日~26日
メンバー 野田、鈴木、松本、川田

9月23日
 会津若松乗換で会津田島に着く。山口行バスに乗る。七ヶ岳を右に見ながら、中山峠を越えて湯の花温泉で降りる。朝飯のおにぎりを食べて歩き始める。頭の上では日がカンカン照る。広い林道を登山者が4人歩いていると、神の助けかダンプが来てジャリの上に乗せてもらう。真面目に歩いたら3時間の道程はあった。田代山登山口で降してもらい、右手の小道に入る。山ブドウを採ったりしながら、トチの実の転がっている道をのんびりと登る。尾根を一つ越えてマガリ沢に出る。ここから沢を右に左に渡りながら行く。天気の良いせいか、風邪のせいかもう一つ調子が出ない。やがて沢から離れて右手の伐採跡の平坦な道を行く。真正面に田代山が見え、その左下にマガリ沢源流に小田代小屋の屋根が見える。マガリ沢の水場のすぐ上が小田代小屋であった。一休みする。小屋から急な登りとなり小田代の湿原に出る。さらに樹林の中を急登すると日光連山が見え始め、田代山大湿原の一角に取りつく。黄色になった湿原、早くも紅葉している小灌木、弘法池に影を落す針葉樹など、一大日本庭園に居るようであった。思い思いにカメラのシャッターを切る。
 ジュクジュクした湿原を下田代から上田代へと進む。後を振り返えると遠く七ヶ岳が望まれた。湿原も終り針葉樹の中に入り弘法堂の小屋に着く。実に良い小屋だ。戸も無いけれど、飲み水だって田代の流れ水だけど、これが本当の山小屋って感じなんだな。
 落書きって言うか、風流って言うか俳句のような川柳みたいなものがずいぶん書いてあった。ウイスキーを飲みながら、スブタの夕食だ。食いすぎちゃって、フウフウ言いながら神様と一緒に寝る。

9月24日
 朝起きて湿原から東の空を見ると朝焼けで上空を雲がゆっくり流れていた。あまり良い天気ではないようだ。
 朝飯を済ませてから、小屋の裏から深い原生林の縦走路を降りて行く。鞍部からやや急な登りとなり、原生林より帝釈山に飛び出す。山頂は展望は良いが、空が暗くなってきてポツポツ雨が降り出す。雨具を出して早々に出発。こんなわけで山頂は良い印象は無かった。ここから250mくらいの下りになる。雨は増々降る、ナイロンのポンチョも水が染みてきてずぶ濡れになる。鞍部でネマガリ竹で道がハッキリしなくなったがすぐ見付かり、今下っただけ登り返さなくてはならない。今日はずっと雨だと思うと気が重い。
 ところが急に雨が止んで、原生林の中に太陽の光が射し込んだ。針葉樹から落る雨のしづくが宝石のように光り輝やく中を、すっかり良い気分になり登っていくと、2020m峰に出る。ここは小さいが最高に気分の良い湿原がある。雨具を乾かし青空の下一休みする。この辺から紅葉も一段と色鮮かになる。台倉高山の双耳峰目指して行く。あまり上り下りの無い道だ。右の峰は巻いて左奥の三角点峰に登る。展望は良く、尾瀬の燧ヶ岳が一段と近く美しく見える。今日歩いて来た、田代山にしても帝釈山にしても、あまりカッコウの良い山には見えない。この辺の山は遠くから望める山ではなくて、歩いて登り湿原の中に原生林の中に入ってこそ良い山だと思う。山頂を後に下る。小さい湿原などを通り桧枝岐からの道と一緒になる。水平の良い道で途中ナメコなど採りながら行く。やがて針葉樹の鬱蒼とした引馬峠に出る。冷い水が流れる水場近くにはトリカブトの花の一群が咲いていた。峠からゆるい登りだが、倒木が多くなり、トゲのある木が多く潜ったり乗り越えたり、トゲが刺さったり大変であった。やがて笹が多くなり孫兵衛山の分岐に着く。我々は左に曲って笹ヤブを下り、前方の黒々とした黒岩山目指して進む。やがて登りとなり黒岩山を大きく左へ巻く。もうすぐ奥鬼怒林道で黒岩清水は近い。道が上下に二つに分れていた。下の道の方に赤キレがあったので下の道を下り始めた。ズンズン下ると道が無くなってきた。どうも上の道が本当らしかったが引き返すのもシャクだし、強引に藪を漕いで林道に出ようとしたのが悪かった。見通の無い原生林の中を2時間くらいさ迷う。暗くなったのでここで泊ることにする。水場もあり、気分の良い所だった。自分たちの居る場所も地図や磁石、南に少し見える鬼怒沼山方面を見て、黒岩山の南に居ることになり、明日北西の方に藪を漕げば林道に出られる確信がもてた。夕飯を食べ残り少いウイスキーを飲んで眠りにつく。

9月25日
 朝、昨日採ったナメコ汁で飯を済ませてから早々に笹薮に入る。昨日思った通り30分くらいで林道に出た。黒岩清水の上の方だった。急に人間がやたらに目につく。そういえば田代登山口から今日まで全然人に遭っていなかったのだ。ナメコなど採りながら坦々と林道を行く。鬼怒沼山頂を巻いて鬼怒沼湿原の見える所で一休み。登山靴が完全に口をあいたのでここに置いて、良い靴と履き替える。足取も軽く鬼怒沼湿原に飛び出す。人間が本当に多い、尾瀬のような一本の木道を進む。でも流石に広い湿原の向うに見える日光白根や根名草山が美しい。湿原も終り、針葉樹の中に入る、始め道もゆるいが急に500mくらい下る。ジグザグ道になる。オロオソロシ滝の展望台で一息入れる。根名草山のドームが紅葉で美しい。下り切って左に道を取る。日光沢温泉や加仁湯の変りように驚く。5年前に来た時の面影を捜すのが大変だ。加仁湯から沢を離れて良い道を手白沢に向う。しばらく樹林の中を行けば手白沢の向うに、山小屋が見えてくる。さっそく野天風呂に飛び込む。夕食はキノコやニジマスが出た。夜寝ようと思ったが、隣のパーティの話がうるさくて寝られず、こちらもトランプを夜1時までやる。一風呂浴びて寝る。

9月26日
 今日は噴泉塔から日光湯元に出るつもりだったが道が悪いのと時間が無いので噴泉塔の往復だけする。今日は睡眠不足と風邪のために調子が悪い。ガンガン登り汗でもかけば良くなるだろうと思って飛ばしたが尾根の乗越でダウン。一休みしてダラダラと下ると湯沢に出て、沢を少し下ると噴泉塔に出るが湯が噴泉してないのでガッカリ。風邪で熱があるのに無理してくる所ではなかった。夏に行った白山の岩間の噴泉塔の方がよほど良かった。パンを食べてから引返えす。足取も重くゆっくり登って行くとガレ沢の下の方に野生のサルが居た。ボスザルらしい大きなサルだけが我々を威嚇していた。野生のサルを見ただけでもやっぱり来て良かったのだと思うようになった。小屋に着いてキスリングを肩に雨の降りそうな空の下を女夫淵のバス乗り場に急いだ。バスはガラガラだった。外は雨がザーザー降り出していた。


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