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遠見尾根より五竜岳
川田 昭一

山行日 1972年3月18日~20日
メンバー 川田、野田、平、山本

3月18日
 朝、神城駅に着く。夜行列車とおまけに朝夕の国電なみの混雑した列車の中を7時間半くらい詰め込まれて来たものだから混雑から解放されたプラットホームに降りての空気のおいしさが何んとも言えぬ。駅にて差し入れの品物の荷分けをする。山本のヨッチャンが、こんなに差し入れが沢山あっての山行もめずらしいと言う。なにしろ上等のアルコールが?本、つまみ、弁当、etc、あるある、今夜のベースにての生活が楽しみである。朝食を駅にて摂り、8時、神城駅を出る。かなり大きな移動性高気圧に包まれて日の光が夏の日ざしより強い中を登る。遠見小屋に11時半頃に着く。遠見小屋には、もう既にどこかの縦走を終えた、黒ビカリの連中が小屋を取り巻いて、ごろごろしていた。我々も大休止を取って30分くらいそこに居た。夜行の疲れと暑さで、体力の消耗が大きかったせいかこれから小遠見まで登るのかと思うと、うんざりする。誰れかが「ここでテントを張ろうか」とやや真実性を含めて言った。内心「これはいいぞ」と思ったがすかさず、山本のヨッチャンが「同じ張るなら多少がんばって小遠見まで行こうや」と言う。時間にして約2時間、2ピッチで小遠見のピークまで来る。ここでついに見た!!鹿島の北峰が左の荒沢の頭と、右の八峰キレッ卜、両基部から本峰に向けて急峻な線を持って聳えている。ここからでは北壁は見えるけど北壁を下側から支えている「カクネ里」がカクネて見えないからもう少し登って「カクネ里」も見える所まで行こう、という話しが決まる。人間は自然美に対する飽くなき探究のために労を惜しまないなんて、かっこいい表現を語り合っている内に中遠見のピークまで来る。ここのピークは北側が深く切れ落ち、南側は緩い斜面を針葉樹が適当な間を置いて谷まで続いている。「ここがいいやいいや」みなの意見が一致する。荒々しい北壁、五竜の壁はもちろん目に入る。これらとは対照的に、カクネの深い谷が白い雪に包まれて自然の眠りについておとなしそうに見えるという景色の良い所である。ヨッチャンは例によって宴の用意のためか?バーナーを焚きテント内を温めている。数時間後、寝袋に入り熟睡する。

3月19日
 起床3時、温かい。テントから顔を出しても冷とした空気が顔を包まないことでわかる。おまけに快晴ときている。6時にベースを五竜に向けて出る。朝の日ざしが五竜に向かう我々の背に当たる。その光はもちろん五竜、鹿島の山についている雪にさし込み、そのてり返しがみかん色となって、我々の目に映って見える。ピッチが上がる。2ピッチで五竜小屋に来る。まだ移動性高気圧の圏内にあるため風はほとんどない。五竜のピークに近づくにつれ慎重にアイゼンをきかしてトラバースする所が所々ある。緊張する所を登り詰めると、ちょっとしたコルに出る。ここからは五竜の頂きが手の届く所にあるだけに、休まず登り続ける。五竜のピークには9時半頃つく。風がないためタバコがうまい。またヨッチャンが持って来た笹カマボコもさっぱりしてうまい。ピークに30分位いてすぐ下る。
 途中一回休んで昼頃ベースに着く。昨日と今日の半日、強い日ざしの中をゴーグル無しで歩いたものだから、雪目にかかったらしく頭が重いが目はまだ痛くない。一般に雪目にかかった場合、急に痛み出すのではなく、ある程度、潜伏期間を置いて出るそうである。今晩は目が痛くならないとしても、明日は出るだろうと覚悟して寝る。夜9時頃である。

3月20日
 起床3時。ヨッチャンの声で目を覚ます。外は気温が高い方である。雨風が酷く、テントが風でバタバタと音を立てて、うるさいこと。日本短波放送が、朝5時半から放送している山岳気象によると、午前3時現在の低気圧の中心は山陰沖にあり、これから時間と共に、異常に発達するとのこと。輪島、米子の上層、3000mの風速がそれぞれ18m、21mと放送されたので、ここのベース付近でも朝6時頃には平均20mの風が、吹いていたと思う。ラジオの予報どおり、時間と共に、風が強くなっていることが、テントをはたく、音で知れる。朝食を摂り、これからのこと、つまり下るか停滞するか、といういずれかのことで、話し合う。問題点は、ベースから遠見小屋までの下りである。時間にして、おそらく1時間(トレースがはっきりついているという条件)と見て、風と雨による体力消耗、それに勝つための装備、カロリー源の補給を持ってすれば下れるという結論が出、すぐ徹収にかかる。遠見小屋までの1時間にかけて下り始める(小屋まで行けば、状態によって、小屋で停滞も出来るからである)。
 風は中遠見と小遠見のコルで最も強く吹いている。雨がアラレに変わり、強く吹く風に乗って、顔に当たるからたまらない。痛い痛いこの辛らさを我慢して、コルを通過する。
 小屋に近く下るにつれ風、アラレが上ほどひどくない状態になったが、昨日かかった雪目の痛みが出てきた。一難去ってまた一難。とにかく痛い。今日の行動の最大のヤマバを越えて、遠見小屋に着く。べースから50分で来た。小屋には寄らず、すぐ下り始める。
 ベースにて下山する直前に、熱い紅茶とビスケットを沢山腹に入れて出て来たので、腹の方は、まだ平気である。どんどん下る。遠見小屋から約1時間半、神城駅に着く。

〈コースタイム〉
3月18日 神城駅(8:00) → 尾根取付(8:45~9:00) → 遠見小屋(11:45~12:35) → 小遠見(14:20~14:30) → 中遠見BC(14:45)
3月19日 BC発(6:05) → 大遠見(6:35) → 白岳手前コル(7:20~7:35) → 五竜小屋(8:20~8:30) → 五竜岳(9:35~10:10) → 五竜小屋(11:00) → BC
3月20日 BC発(11:40) → 遠見小屋(12:30) → 神城駅(14:00)

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