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利尻岳
長久 鶴雄

山行日 1972年7月26日
メンバー 長久、長久(美)、石原

 30年も前になるが満州(今の中国の東北省)の山々を歩いた時、その印象が北海道のそれに似て私はもう一度という気持ちから、北海道の山を訪ねることにした。
 しかしながら、昨年北海道を訪れた時、その観光ブームや開発によってすっかり変わってしまっていることを知らされている。あの長い変化に富んだアプローチから桃源郷の如きお花畑に出て、やがて北アの山を想わせる山頂に立つ喜びがあったものだが今はどうだ、日高山系、大雪山系だって、天塩の山々さえ昔の桃源郷までバスが入り、ケーブルができ、お花畑は荒され昔の憧れの山頂は公園の丘となってしまい人々で溢れ、ビールの空き缶が散乱する。これも時代の流れで致し方ないことと諦めたが今回の利尻と暑寒別は未だ私にとっては未知の山であったので期待はしなかったが訪れることとした。
利尻岳
 アイヌ語で利尻とは高い島ということで、その名の如く日本の北限に1700余mの高さを誇るこの島は即ち利尻岳である。海岸線0mより1700mの登行は距離高度差からすると上高地徳沢辺りから槍ヶ岳頂上まで一気に登るに相当する。しかも視野があるのでどのコースをとっても約1200mは見上ぐるばかりの峻線を急登また急登することとなる。コースは鷲泊口(一般向)、沓形口(中級向)、鬼脇口(上級向)と言われているがそれほどの差異はない。鬼脇コースは難コースというがただ頂上間近く岩峰が連続して鎖場がある程度、北アの不帰よりも容易であり、沓形コースも急なガレ場のトラバースが頂上近くにある程度である。鷲泊口は大勢の人が入るので道がしっかりしているということだけであり、頂上近くなっての急峻さは同じである。特に上級、中級と言われるコースは近年自動車道が相当奥まで入り、荷が重い時などはこの方が時間的、体力的に良いのではないかと思われる。特に冬期は積雪、風向きを考えるとむしろ鬼脇コースが一番良いとさえ考えられる。積残雪期の外国の山に見るような写真の景観はほとんど沓形コースと鬼脇コースの一部からのもので、頂上に立つとぐるりが海のせいか高い割に山に登った気があまりしない。やはり富士山と同じように下からまたは途中から眺める山かも知れない。
 私達は平均年齢48才なので空身で鷲泊コースを登った。早朝、鷲泊の民宿を出る、宿の前から一本道で自動車道を20分も行くと一合目ハイキング通りの入口となる樹林帯をだらだら登り、40分で三合目水場(甘露水)に着く。ここで水を補給しないと残雪期を除いては頂上まで水はない。ポン山(アイヌ語で小高い山と言う意)を眼下にする頃より早潅木帯となって急な登りが始まる。北緯45度5分ともなると海抜500mでもう這松が現われ出す、火山岩灰の溝のようになった道はただひたすらに上へ上へと続き、灌木と這松では日影も無くその暑さに閉口した。五合目、六合目と標識が約500mおきにあるがこれは距離なので六合目から七合目が高度差の関係か非常に長く思える。海洋気象の影響でこの付近は午後は必ずと言って良い程雲がかかるところであるが1100mを超えるともう雲の上であるから心配する事もない。七合目を過ぎて一登りで大官峰1218m三角点に出る。利尻の肩とも言えるところで右へ西南に緩い上下の尾根を辿るようになる。左手下に平担な草原が開けその後に本峰が残雪を見せて500mの大ピークとなってのしかかるように聳えている。八合目までは小さなピークを二つ程上下して着く。ここまで来ると円い島の海岸線が180度に展開し遠く樺太も見えるとか、今はそれどころではない。潅木につかまり岩によじ登りただ上へ上へと....やがて一寸した平に出るがここが九合目で頂上の岩峰がすぐ目の上にある。ザラザラした小石混じりの悪い道をなおも急登すると右手に大きく赤いガレ場が現われるがここで沓形コースと合する。もう一投足である。風化した火山岩の岩峰は鬼気せまるように林立し火口壁の名残りを留める岩壁に沿った道は全り良くないがやっと頂上の岩峰上に立つ。頂山は狭く三つのピークがありその中央のピーク上に三角点があり小さな祠がある。頂上の南端ピークの下を巻いて鬼脇コースがあるが利尻アルプスと称する岩峰群は殆んど下部を右に左に巻きながら下っている。頂上の展望は360度といって良い。老人共(私ではない)がすっかりバテたので帰路沓形コースの下りをあきらめ、再び鷲泊へ下ってしまった。大体登り7時間、下り5時間半で足りる。
 利尻は北海道と遠く海を隔てているので熊も蛇もいないが野鳥は非常に多く従って昆虫も多い。ただ残念なのは時期的に悪かったのか花が少なかったことだ。それと利尻、礼文の観光宜伝がものすごく舟から宿、山の上まで人でいっぱい。行くならこの季節は避けて残雪期か6月中旬をお薦めしたい。

〈コースタイム〉
鷲泊(4:30) → 甘露水(5:30~6:30) → 七合目(9:00) → 大官峰(9:30~10:00) → 九合目(10:40) → 沓形分岐(11:10) → 山頂(11:40~12:10) → 九合目(12:40~13:20) → 甘露水(16:30~17:20) → 鷲泊(18:20)


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