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鼻曲山~浅間隠山
松本 順子

山行日 1972年11月12日
メンバー 播磨、今村、稲田、松本、長崎

 鼻曲山から浅間隠への山行があると知り、何か面白そうな名前の山だし、赤軍派の浅間にも近いし、何かあるかも!と思い心弾ませながらも恥ずかしそうに軽井沢のホームに降り立つ(軽井沢なんてロマンチックな駅にこんなドタ靴と山姿で降りたくなかった、何としても白いジャケットなぞ着て優雅に降りたかったのに....)。外は寒いし峠までは長い道路が続くのかと思うと何としてもタクシーに期待したいところだけど、本の記載通り乗車拒否されて空しくトボトボと北軽井沢に向かって歩く。辺りは真っ暗、赤軍派の残党でも現れるのではないかとビクビクしながら山道に入る。ダラダラした遊歩道を夜行列車の寝不足でシャッターがおりてくることしばし....。互いに眠い、眠いと交信しながら巻道を遠回りして峠に着く。ここまで車で入ることができるのに....。長野県から群馬県に入った街道を少し進み、左の山道に入る。緩やかな登りが続き、空は一つずつ星が消え、東の空が茜色に染まり始める。辺りは晩秋の山らしく、木々の葉は落ち、すすきが風になびき、落葉を踏む音がするばかり。誰かが唱う(いや、うなるかな?「ゆかたのきみはぁ、すすきのかんざしィ....」
 相変らず緩い登りが続き、一文字山を何となく通り過ぎてしまっていた頃、もう夜は明け太陽が出てこれから登る一等三角点の留夫山が眼前。駅を出てから峠で一休みしただけで空腹と寝不足で登る気力は無いのに、留夫山まで行こうと決めたはよいけれど、登れど登れどまだ頂上は遠い。内心「留夫山まで頑張って朝食にしよう」なんて大きなことを言って失敗したなと後悔してもはじまらない。今日は行程が長いから頑張って歩かなくちゃ!と太陽に追っかけられるように頂上に6時半に着く。一等三角点だからと期待した展望は裸樹がうるさく切れ切れ....新雪をまばらにつけた浅間山が大きい。これから向う鼻曲山がすぐそこです。本当に横からみた鼻の形をしておかしい。留夫山からは危な下り。落葉で足元がわからず霜柱で思わず足が滑りヒヤヒヤするような下りが終り、右から霧積温泉からの道が合すると鼻曲峠で左側には車道があった。これより鼻曲山への登りが続き、天狗山に20分程で辿り着く。鼻曲山の三角点はここから5分西の頂にあった。遠く南アルプスの甲斐駒、北岳、八ヶ岳、志賀、横手山、白い谷川連峰、そして全山白い衣裳をまとった後立山連山など非常に展望が良い。
 空には曇一つなく、実に素晴らしい。これで眠気がなければもっといいのに....(なにしろ、一本立てる度に眠くなるのだから....)山頂で休んでいると二人の登山者が登ってきた。浅間穏にゆくらしい。我々は先に出発。しばらく急な樹林の下りが続き、かなり下ったあたりで二股に分かれる道を踏跡の不明瞭な右の道に入る。辺りはすすきが原で、ちょっと奥多摩か奥秩父の山にいるような錯覚をおこす。少々薮臭い道の緩い登り下りを続け、日妻山を大きく巻いて下りにかかろうとする道端で休む。この辺りより非常にスズタケが多い。35分程休んで、いよいよ二度上峠へ下る。相変らず落葉に塞がれて足元の不明瞭な下りが続くが朝と違って、霜柱が融けてきたためか、余計に滑り易い。峠に着いたら、二度上神社の鳥居の階段で二人のおじさんが昼食中、林道を倉淵方面に向って歩く。10分程して指導標に従い沢通しにゆくがどういう訳か途中でルートを間違え、神駒山のピークに道は続いているのに気付き、鞍部に向って植林の中をあちこちひっかけながら登る。尾根の上まで出たには出たが、さてこれよりはボート漕ぎならぬ、薮漕ぎ。手を使い足を使い、スズタケの密ヤブの前進。ポッカリ出た所は岩淵山と浅間穏の鞍部。これから向う浅間穏があまりに大きく遠いのでとにかく腹ごしらえをして戦いに挑むこととする。鼻曲山で会った二人組も昼食をとっています。全行程の2/3消化したとはいえこれからの登りはキツいし、下りも長い。バスに間に合う為にも早々に腰をあげ、登りにかかる。浅間穏の登り道は良く伐採され登り易い。しかし軽井沢からはるばる辿ってきただけにさすがに足は重くただ黙々と登る。やっと辿りついた時、陽はそろそろ傾きかける1時45分。鞍部から1時間の登り。結果だから言えるものの快調なピッチである(その過程の様子は想像におまかせ)。長い間の念願の浅間穏に登れて感激する者あり、ただひたすら眠いとボヤくものあり、30分程、太陽に向って昼寝する。「2時半だよ」の声に起こされ、ねぼけまなこで下山仕度に取りかかる。秋の日は短かく、2時半というのにまるで4時近いような傾きかかった日差しの中に浅間山や遠くの山々は白くかすんでいた。
 下りは石楠花尾根を一気に下る。この辺りは石楠花の群落でシーズンにはさぞかし美しいところだろうと想像できる程、深緑の葉を持つ石楠花の木が拡がっている。鼻曲山から二度上峠までの道は非常に薮臭いが、浅間穏からの下山道は非常によく手入れされており急とはいえ楽な下りでした。40分程で急な下りも緩やかになり沢音を右に聞きながら、落葉を拾いつつ山頂より1時間20分で林道に着く。長い林道が終り、バス停に着いた頃、日はすっかり沈み、月が出て星がチラホラ。バスがあると喜こんだのも束の間、5時以後3本のバスは日曜祝日運休。近くのお店の人の親切(?)で車2台に別れて群馬原町駅に着く。後で分ったことだが、タクシーよりも高くついたとか....でもフォルクスワーゲンにも乗ったことだし。
 最初は全行程歩く自信は無かったが、項張って歩いた甲斐あり、実によく歩いた山行で充実した一日でした。


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