トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ219号目次

甲斐大泉~権現岳
永田 昭三

山行日 1973年1月14日~15日
メンバー (L)川田、永田、春原

 蟻の巣のような新宿駅の風景は毎度のことであるが、でもいつも感心せざるをえない群集の列である。我々もその一員となって23時50分発上諏訪行普通列車の人となった。各自の寝床を確保し、うとうとしていると早、小淵沢。そこで乗換え、4時32分には甲斐大泉到着である。駅と言っても無人。電燈一つつきません。辺りはまだ真暗。ちょっと駅の外へ出でみると空には一面星々。こぼれそう。そして八ヶ岳高原の裾野を落す甲府盆地の街のネオンの光が遠く点々と目に影り、すばらしいメルヘンの世界です。「この調子だと今日は快晴だなあ」と思いつつ、我々は夜明けまで駅待合室のベンチで仮眠することにしました。でも寝るどころではありません。ガタガタ震えながら、ただ横になっているだけです(ご案内ーこの甲斐大泉の待合室の中にマンガコーナーという図書棚があり、その棚には大型マンガ100冊ほどがびっちり読書自由、お寄りの節はどうぞ!!)夜明けー出発の仕度をしていると始発列車が小淵沢より八ヶ岳高原を登ってきました。駅はパッと明るくなり、電燈が点りだしました。数人の男女が列車より降りて来て駅は賑やかになってきました。我々はリュックをパッキングし、権現への登りの開始です(6時25分)。天気は快晴、最高。甲斐大泉の駅前から左に少し行き、小海線の踏切を渡る広い道はまっすぐ山に向って伸びています。途中コンクリで整理され左右には別荘分譲地と思われる家々を時折見られ、脱都会の波がここ八ヶ岳高原にもやってきた様です。裾野の緩い傾斜を登って行くと、八ヶ岳横断道路という、登山にはいささか目ざわりな自動車通行予定道路にぶつかります。ここでこの広い道とは別れ、ようやく細い登りらしい登りになりました。三ツ頭権現岳登山口の立札をみながら30分程登りつめると台地になった平担な頂上部に出ます。ここが天女山です。ここには荷物台もある屋根ぶきの休けい場があり、甲斐大泉駅の列車時刻表なども貼ってありました。みかんをかじりながら遠く奥秩父、南アルプスの山々、遠く富士の姿、眼下の甲府盆地をカメラにちょっと収めていると我々の前を二人の男の登山者がワカンを着用し通って行きます。雪は特別深くはありません。ですが、先頭を切って踏み跡を作ってくれるので助かります。(このグループは前三ツ頭まで、抜きつ、抜かれつの仲となりました)この甲斐大泉権現コースは茅野方面からのコースと違って、人影は少なく静かな登りです。二つのケルンが雪の中にぽっかりと顔を出した、小さな広場に出ます。我々は20分程一休み、早めの昼食を摂って、赤岳の頂上部を眺めながら、急な森林地帯に入りました。ここから傾斜がぐんときつくなり、三人のペースは乱れ始めました。先頭川田さん、二番手春原さん、ラスト私。そして、その間隔も除々に開き始めました。
 私は心臓の鼓動が激しくなるのを抑えつつ、喘ぎ喘ぎ先頭に追いつくべく登りました。前三ツ頭までの登りは相当こたえましたが、でも時折森林地帯を抜けて視界のきく尾根に出れば、気分はまた素晴らしいものでした。
 前三ツ頭の小びろい台地に着いたのは午後2時30分頃、権現の姿は三ツ頭に隠れて見えませんでしたが、しかし、周囲の山々(南、奥秩父、富士、中央アルプス)が一望に展望がきき、素晴らしいものです。
 今日の予定は三ツ頭までのつもりでしたが時間がかなり経過し、体力的には衰えているとの判断から、前三ツの鞍部でテントを張ることにしました。夏テンの為、強風にあおられるとの心配から結局前三ツよりちよっと下った尾根の窪みにテント場を見つけ、今夜の宿としました。夜の食事は豚汁、あかあかと曖かいバーナーの光の中で食後の話題はもち!!川田さん登場。新婚の味、いかがかと春原さんと二人で攻めるも効果なし。ただ、モジモジ....「もう、いいでしょう。結婚すれば、この味わかります(こんな事言ったかな?)早く寝ようか」、との声で全員、シュラフの中にもぐり込んだ。疲れも手伝ってかすぐまぶたが見合い、夜明け前、時折吹く風の音で目が覚めるまで「知らぬが仏」外は生憎の小雪降り。7時起床。食事後、視界がなくても一応三ツ頭までと調子の悪い私を残して、川田、春原さんは登って行った。残った私はテント内を整理し、いつでも下山できる様に仕度を終え、前三ツ頭頂上部まで二人を迎えに出た。天候は一向に回復しない。11時30分、小雪の降る中、ベーステン卜を出発。急斜面を一気に下り1時間半程で天女山に着く。途中小雪の降るカラマツ林の中「すばらしい」の春原さんの連発の声。この山行も午後2時5分甲斐大泉駅に到着で終りを告げ、我々はスケート客でいっぱいのディーゼルカーの客となった。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ219号目次