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巻機山~白毛門
播磨 忠

山行日 1973年9月15日~16日
メンバー 別所、庭野、長崎、平、春原、播磨、柴田、山本

9月15日(雨のち曇)
 前日の天気図から判断すると、今日は9月の連休にはめずらしく良い天気になると思っていたのだが、日本海に発生した小さな低気圧のため、六日町駅に着いた時は、どしゃ降りの雨であった。連休は毎度のことであるが、どこの観光地も満員である。御多分にもれずここ六日町駅も寝ている登山客で足の踏み場のない程の混雑だ。一番バスが出るまで、身を横たえるだけのわずかのスペースを見つけて仮眠する。
 バスを降りる頃は先ほどまでの激しい雨も止んでいた。一昨年の春山合宿の時にお世話になった小野塚さん宅で朝食を出してもらい一休み、食事をとっている間に、空模様も青空が顔を出すぐらいまでに回復、勇躍出発。
 今日の予定は、春原さんら3名は尾根コース、私を含めた5人が米子沢を詰め、午後2時頃までに巻機山の避難小屋で落合うべく、それぞれのコースに分かれる。
 我々沢コースの5人、三合目で屋根コースの人と分かれて沢に下る道をとったのだが、途中から道が判からなくなり、薮をこいでやっとの思いで沢の縁に出るが、そこから沢床までがかなりの高さの急崖になっており、木の根につかまりながら、ずり落ちるようにして沢床に降りる。最初からこれでは先が思いやられる。
 最初、沢は何の変哲もないゴーロであるがいつも伏流である筈の米子橋辺りでも水流が激しかったぐらいなので、水量が多く、水流を飛んで左右に移りながらの遡行には大変苦労する。最初の滝の手前でわらじを履き、いよいよ本番の遡行に入る。最初の滝は右側をわらじのフリクションをきかせて簡単にパス、その上で正面からナメ沢が入り、本流は右折。なおも滝場が続くが、大変多い水流に圧倒されて、右側の巻き道を利用する。そこを巻き終えると少々傾斜が緩くなるが、なおもナメが続く。今度は巻き道は左岸に移っているようだが、ここからは水流に沿ってナメを登る。米子沢はほとんど滝の連続で、大変快適な遡行を楽しめる。滝と言っても垂直のものはほとんどなく、傾斜の比較的緩いナメ滝が多い。このような沢の遡行には何と言ってもわらじが一番で、その快適さは一度味わったら忘れられない。
 ツバクロ岩のところで一本立てて、少々平凡になった河原を行くと極度に狭まったゴルジュになる。ここはゴルジュに入る手前の滝を左側から越えて右岸をへつるのであるが、水量が大変多いため手前の滝を越すのにシャワークライムとなり、ゴルジュの中もへつるのが困難と思われるので、左岸の巻道を利用してゴルジュをパスする。
 ゴルジュの先にはこの沢最大の滝が架かっているのが見えるが、巻道はなおも登る気配を見せる。ここで我々は一つ大きなミスをしてしまった。と言うのは、この巻道の途中から不安定な草付をトラバースするように踏み跡があったのだが、あくまで巻道に固執したためにこの沢の最大の目的である大滝の上から続く長大なナメをも登れずに、ダイレクトに国境稜線に登ってしまったのである。即ち、この巻道は稜線へのエスケープルートのようなものだったのだ。
 稜線に出た地点は巻機山と米子山との鞍部より少々巻機山へ寄った地点であった。時計を見ると午後1時を指している。ここに荷物をデポし、約束の2時までに避難小屋に行くため急遽そこを出発、途中水場にて水を補給する我々を置いて別所一人先行する。その後、頂上にて全員8人が勢揃いして先ほど荷物をデポした所に向け先を急ぐ。少なくとも今日は米子頭山を越して柄沢山近くまで行かなくては明日の行程が苦しくなるのだ。デポ地点に到着したのが4時少し前、急いで荷作りして出発しようとしたところへ急に激しい雨が降ってきた。気温も急激に降下して我々はその地点に釘付けになる。先ほどまでの青空は何処へ行ってしまったのだろう。
 そういえば今日は目まぐるしく天気の変わる日であった。先ほどまでの巻機山頂での好天は、これからの縦走の成功を約束するかのようであったのに。約30分、その地点で雨の上がるのを待っていたのだが、雨は一向に止む気配を見せない。鳩首会談の結果、明日は恐らく晴れるかも知れないが、これからの縦走は諦めて先ほどの水場の地点まで戻ってビバークとする。首まで潜る笹の中を全身びしょ濡れになりながら歩く。皆、目的を放棄したことと、雨に打たれて寒くなったためか声もない。結局、その日は巻機山山頂下の草原にてビバークとなった。
9月16日
 朝のうちは濃いガスで展望も利かなかったが、朝食を摂り出発する頃になってかなり天候も回復し、巻機山の牛ヶ岳を往復する頃には青空が広がってきた。今日は縦走を諦めたため、南入りの頭経て神字入尾根を上長崎へ下ることにした。割引岳を越えて神字山、南入りの頭と越えていくうち、天気は完全に回復して真夏を思わせる暑さだ。神字入り尾根からは神字入り沢や南入り沢の長大なスラブを見ることができた。この辺りは交通不便なためか、あまりその記録を見ないがこれだけの滝を掛けた沢も珍しいので、そのうち登山者の姿も見られるようになるだろう。尾根も最終行程にきて、後少しで終わりというところで我々8人は蜂の襲撃に合い、3人がニッカーホースの上から脹脛に被害を受けた。この山行での反省は、巻機山から白毛門の縦走は無理とは思われなかったが、巻機山へ登るのに尾根班と沢班に分けて登ったため、巻機山からの縦走に入るのに意外と時間がかかったため、最終目的である縦走を放棄せざるを得なくなったことであろう。もちろん天気の良し悪しも左右するだろうが、以後このような時間的に厳しい山行では同一行動を原則としたい。


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