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茶臼岳~光岳
稲田 竹志

山行日 1973年8月18日~21日
メンバー 野田、川田、春原、稲田、平

 心配していた台風もうまい具合に大陸の方へ逸れてくれたし、これならバッチリ日焼けできそうだと勇んで出発したものの、悲しい運命を背負って生きる小生、やはり雨は降ってくれた....と言うより雨を見なかったのは下山の日だけでした。
 8月18日朝7時、畑薙ダムに着いた我々5人パーティ。文明の芸術とも思えそうな大規模なダムとこのダムを取り囲む大自然、本来ならここでカメラを出すところなんだけれども、今から合宿の第一歩が始まると思うとその気にもなれない。朝食を済ませ、いそいそと林道を歩き出す。
 シュラフなし、テントも止めてツェルトにしてかなり軽量化したつもりだが、やはり2ヶ月近く山登りできなかったせいか息切れはするし呼吸も乱れがち、初日はしんどい。ウソッコ小屋までは沢伝いのルート。
 後で思ったんですが、初日のしょっぱい登りなどは沢がすぐ傍にあるのとないのとでは疲労を感じる度合いが随分違うようですね。でも途中で逢った60才くらいのおじいさん、我々のザックとは比較のしようもないくらいの大きな荷を背負ってた。「さあこっちもファイト、ファイトオーッ」と、やむなく元気そうな顔つきで歩きだす。
 横窪沢に着いたのがお昼頃、ここで大休止を取る。茶臼の幕営地までは後3時間、この分なら行けそうだ。早く夕食にありつけることだけを夢見てひたすら登る。この辺りはガスって何も見えないし、そのうちに小雨も降ってきた。まあ、必要以上に汗をかくこともないし快適な雨だ?。幕営地に着いたのが4時頃。しかし寒い。これじゃバッチリ日焼けどころか凍傷になりそう(ちとオーバーですが)、手はかじかみ歯はガチガチと震える。今夜は平さん、春原さんの特性スタミナ料理です。
 次の朝も雨、気象情報を聞き、これ以上今日の天気は良くも悪くもならないだろうと判断して10時に出発した。今日は光小屋までのこの山行中一番短いコース。視界数十メートルの濃霧のため全く展望なし。仁田池を経て易老岳へと向かう。そして光小屋までの倒木帯を行く。この辺りは入山者は少ないが踏み跡はしっかりしている。三吉平から先は大きな沢のような凹地を詰め、時折右手左手に姿を見せるお花畑のミニ版におだてられて登り詰めるとそこがセンジヶ原。センジヶ原は美しい。小生の凡才ではとても表現できないほど美しいですよ。ここより光岳は正面に見える。センジヶ原の左手にある分岐を空身にてイザルガ岳へ駆け登れば、我々を待っていてくれたかのように霧が晴れてくる。この時まで展望らしき展望はあまりなかったので全員大いに足を伸ばす。
 イザルガ岳....あまり聞かない名前ですがすぐ隣にある光岳に比べると随分損をしている山だなあ。そして我々は光小屋へとまた分岐の所に戻った。
 さあ明日からが困難なルート、薮と闘うために早く寝ようっと「お休みなさい....」
 入山2日目、今日もツチノコは出なかった。

光岳~大根沢山~大無間山~寸又峡
川田 昭一

 8月20日、光小屋を早朝に出る。今日は南部縦走中でも特に稼がねばならぬ路である。3年前には下山ルートとして光小屋から百俣沢の頭、柴沢小屋、千頭ダム、寸又峡温泉へと下ったことがあるが、今日は百俣沢の頭から信濃俣山を経て大根沢山、大無間を大ダル小屋へ出る別ルートを取るからである。今日の幕営地は大根沢山直下の水場に近い平場までである。果たしてそこまで行けるかどうか思案しながら、光小屋を後に百俣沢の頭まで良く踏まれた登山道を下る。50分足らずで百俣沢の頭を通過して、信濃俣への縦走路を取り下り始める。百俣沢の頭と信濃俣の間のコルを通過し、信濃俣西峰の分岐点ピークで休む。ここまで光小屋から約3時間のタイムである。南峰の分岐ピークは大根沢から登って光へ行くルートが右から入ってくる。我々が目指す大根沢山、大無間へ向かうルートが左に分かれている。ジャンクションピークである。休みもそこそこに左へのルートを取る。大無間へルートを取って束の間、すぐに踏み跡は無数の倒木と藪で不明となり30分くらいのロスタイムでこれからの長い縦走に向かってのファイトが落ちる。幅の広い信濃俣南峰の尾根の下りも痩せてくると初めて踏み跡らしきルートを見つけることができるが、それも痩せ尾根だけの場合で尾根が幅広くなるとあまりはっきりしない道が見え隠れに続く(あまりはっきりしないとは、獣道があちらこちらに無数に走り、おまけに藪と倒木で道を探すのに大いに苦労させられるからである)。信濃俣南峰の分岐から2時間で2,100mのピーク手前の見晴らしの良い倒木帯に出る。後ろを振り返ると南峰から派生している太い尾根が見られる。難渋して下ってきたことを思うと憎々しくも見えるし、また自然の大きさに驚かされるような山容をしている。2,100mから大根沢山直下のコルまで大小幾つかのコブを忠実に越えて、3時間のアルバイトである。直下のコルからいきなり藪をかき分けて忠実に稜線を登るルートと、直接登らずトラバース気味に南へとる微かなルートがある。水平にトラバースして10分くらい進むと縦走路中の唯一の水場へ辿るルートが赤ペンキで示されているのが確認できた。岩が露出した下りだが、ここへ下らず藪だらけの左の急斜面をがむしゃらに15分くらい登って痩せた尾根筋に出ると、忠実に稜線を詰めてきた微かな踏み跡と一緒になり、この痩せ尾根から大根沢山へ向けて400mの登りが始まる。途中から痩せていた尾根も幅をもってくる。鬱蒼とした針葉樹林帯を右へ右へと検討をつけて登る。前方を見上げても、後を振り返っても樹林帯に塞がれて何も見えない。荒らされていないコケ類が作った緑の絨毯が木々の間に上へ上へと敷き詰められている。この400mの登りはかなりの急登であり、朝からもう既に実働10時間は動いている。疲れているためかピッチが上がらない。それでもやっと平地上の鬱蒼とした原生林のところに出た。大根沢山のピークに近いことを地図は示しているが、2,300mの三角点が見つからない。ここでも獣道がやたらと多いのには参った。地図と磁石を頼って南西に向かって原生林の中を歩くと、小高い所にかもしか山岳会の取付けた指導板が見つかり、その下に三角点を見定め我々は互いに顔を見合わせ感激に浸った。4時を回っていたこと、疲れの状態を見て三角点の傍の平地状のコケの絨毯の上にテントを張った。
 8月21日、昨夜中に降っていた雨が止んで秋のように何処までも澄んだ空で、大根沢山ピークを5時半頃出発する。相も変わらず原生林の中で見通しは利かないが、緑のコケの絨毯が続き多少の変化を付けてくれるせいか飽きはこない。やがて東西に広い平地を持った大根沢山の南西の方向に向けて広い尾根を下る。なるべく右側の寸又川に沿って下るようにした。右側をそれて下り続けると明神谷の支流に入ってしまうからである。注意したい所である大根沢山と小根沢山の最低コルに近づくにつれ樹林帯から解放され、目指す大無間のピーク、寸又川対岸の不動岳、黒法師岳、鶏冠山等の山々が見られる場所に出た。最低コルを通過する辺り、カモシカの鳴き声を聴く。コルから小根沢山ピーク(2,100m)まで約1時間で着く。この辺りから大無間山、大無間の肩がつい目の前に見えるが、地図上に載っていないコブが幾重にもありうねうねと曲がっているため、予想以上に時間がかかり1時間半も費やして肩に着いた。大無間の肩(2,126m)は東に大無間山への登り、西に三方窪の下りを構えたジャンクションピークで、また小根沢の源頭でもありピークのすぐ下まで源頭のガレが食い込んできている。ここの肩から2時間半かけて大無間山を往復する。縦走もこの肩で事実上終わりだ。稲田をトップに替えて下る。途中、踏み跡不明な所があり、幾度か道を取り違えたためロスタイムも含めて大無間の肩から5時間で大ダル小屋に入る。

〈コースタイム〉
8月20日 光小屋発(5:00) → 百俣沢の頭通過(5:45) → 信濃俣北峰(7:30) → 信濃俣南峰(8:45) → 2,100mピーク(10:45) → 1,932m(13:15) → 大根沢山直下水場の分岐(14:20) → 大根沢山ピーク(16:20)
8月21日 大根沢山発(5:35) → 最低コル(6:55) → 小根沢山(2,100m)(8:25) → 大無間の肩(9:40) → 三隅池(10:05) → 大無間ピーク(10:50) → 肩(12:30) → 三方窪(14:00) → 鹿の踊場(15:10) → 樺沢のコル(16:50) → 大ダル沢小屋(17:30)

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