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塩見岳 冬山合宿偵察と塩見沢遡行
別所 三郎

山行日 1973年9月29日~10月1日
メンバー (L)別所、長崎

 一口に言って、天狗岩の側面をトラバース気味に下降する時が、ヤマ場である。森林限界を過ぎてからの南よりの強風、露出した岩、急斜面、アイゼンを引っかけたら命取りだ。森林限界をちょっと超えてある塩見小屋から頂上アタックの往復「おそらく5時間はかかるだろう」が勝負になる。しかし天気さえ良ければ、3日間で目的は達せられる。もし余裕が有る場合は、小河内岳へラッセルアタックできると思う。その意味でベースは三伏峠に、ACを塩見小屋付近に上げ、塩見には全員登頂としたい。特に冬山未経験者は、11、12月に企画してある、ボッカ縦走、ラッセル訓練に必ず参加してもらいたい。

 9月29日、伊那大島からタクシーで土場まで入る。そこにある塩川小屋から水無川出合までは平坦な山道だ。三伏峠への急登はそこから始まる。ジグザグの森林帯の中を、思ったより早く峠小屋に着く。二棟あるが一棟が開放になっていた。紅葉した山腹の塩見を仰ぎ見て、三伏沢小屋に向かう。小屋は開放になっており、水場もすぐありゴミさへ散かっていなければ良いのにと思う。昼食後、三伏沢を下る。ところどころに踏み跡が残っている沢沿いの道は倒木だらけであった。塩見沢出合で予定通り幕営とする。廃屋の飯場があったのでその中にツェルトを張る。30日、3時に起き遡行の準備を終え外に出ると雨がシトシト降っている。しばらく様子を見ることにする。前線の通過が問題だ。降り続く雨にだんだん気を重くする。案内書にはやさしい沢とある。しかし、いくら易しいと言っても3千メートルに突上げる沢を秋雨の中遡行は冒険である。引返す勇気勇気、と自分に言い聞かす。5時の天気予報に決定を委ねる。しかし局所的な情報は得られない。6時、すこし明るくなって来た。登ることにする。出遅れたので、ピッチを上げ休まず歩く。ゴーロ状が続き、途中5mの滝が2本あったきりで、あっけなく沢の詰めに入ってしまう。どこかの枝尾根につき上げたらしくまだ森林帯の中である。ガスで視界が利かずともかく上へ上へと背の高いハイマツを漕ぐ。増々降り注ぐ雨で全身ビッショリだ。岩影で雨を避けてワラジを脱ぎ、毛の下着に着換えて一息つく。ガスが切れ自分達が天狗岩からの支稜線上に居ることを確認、紅茶にする。天狗岩に着く頃は雨は止ぬが視界がきき、昨日下った三伏沢が紅葉している。南からの風を受け塩見に向う。雪が付いたらどうなるか想像しながら登る。北側に滑落したら谷底まで真直ぐだろう。南側は雪崩がひんぱんに出そうだ。天狗岩から山頂までは慎重を要する所だ。下りに塩見小屋に立寄る。小さな応急に作られた小屋が一棟と、作りかけが一棟あった。収容人員は10人ぐらいだろう。権右衛門山、本谷山と起伏の少い森林帯の道は長い。三伏沢小屋で差し入れの乾燥ごはんを食べ、一気に土場まで下った。

〈コースタイム〉
9月29日 塩川小屋(7:50) → 三伏峠(11:25) → 三伏沢小屋(12:00) → 塩見沢出合(14:40)(泊り)
9月30日 幕営地発(6:25) → 天狗岩支稜線上(8:40) → 天狗岩(10:30) → 塩見岳(11:15) → 塩見小屋(12:00) → 三伏沢小屋(14:00) → 塩川小屋(17:20)

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