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金峰山~国師岳縦走
鈴木 俊之

 増富温泉から年賀ハガキ数枚を持って有井館に着いた。お礼にとモチをいただいた都合
「有井館のおじさん、おばさん、そして毎日縁側で男帯を織るおばあさんみんな親切なんです」本当に良い所です。金山を通る時はここのおいしい手打そばを食べて出発しましょう。犬が一匹ちょこちょこ付いてくる。富士見小屋から大日小屋へと登り今日はおしまい。昼食を作りのんびりと枯木を集めたりして日が暮れるのを待った。誰も来そうにないので小屋の毛布全部を使用した。朝も近くなるとさすが30枚もある毛布をも通して、寒さが忍びこんでくる。山の朝はすばらしい。オーバズボンだけ着用して金峰へ向う。樹林帯の終るころ向うの方に黄色のザックが転がっていた。嫌な予感が頭の中で起こったが、大木の割れ目を見間違えたらしい。特大のキスリングが岩にひっかかり登りづらい岩場も無事通過、誰もいない金峰山頂で昼食を摂った。紅茶はうまい、犬にも食べさせた。どこまでついて来るのだろう。国師直下の大弛小屋までは雪が深い。振り返ると五寸岩がひときわ目を引く。昼すぎに小屋に入る。温度計は15度を指す。プラスかなと思ったがまさか。計画ではしゃくなげ新道を徳利に下り、黒金山~乾徳山の状態を春原さんに報告する約束だったが西沢温泉に入りたくなってコースを検討し計画変更を小屋帳に記入した。シュラフに入るが寒くて朝までうとうとして終る。山の朝はねむたい。小屋の前の水場で転んで指を深く切る。寒い朝は血が止まらない。そんなことより朝日に逆光した樹林が美しい。Kにも見せてあげたい、そう思った。「山ってこんなにいいんだよ」と、でももう別れたんだっけ。現実に引きもどされる。国師は見るべきものもなく、天狗尾根の岩場を下る。西沢渓谷の水の沢で遊ぶ登山者に会った。入山して始めて「こんにちは」を交わす。親切な人でバスの時刻を調べてくれた。新天地で犬にビスケットをやって別れたが、良く三日もついて来たと感心する。となりの女の子からもらったサンドイッチを食べながら、バスは夕方の林道をキラキラ輝く街に向って下り始めた。


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