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池口岳 笹の平
稲田 竹志

山行日 1974年8月18日~23日
メンバー (L)川田、稲田

 縦走中、各所でニホンカモシカを見た。珍しげに我々をキョトンと眺めているヤツ。
 「ゼエーッゼエーッ」とかぜをひいた様な声で逃げるヤツ。また本州鹿の群れは実に可愛い。ディズニーの映画のよう、しかし鳴き声はもの悲しくかん高い。眠れぬ夜にツェルトのすぐそばまで来て嗚かれると平家の落人の化身みたいで薄気味悪い。毛皮が重宝がられる動物もいた。残念ながら彼は気が小さいのかすぐ逃げるのでその美くしい金色の毛を見られるのはトップの川田さんだけ、2メートル後を歩く僕は一度もお目にかかれない。
 稜線を(といってもヤブだが)幾重にも横ぎるケモノ道で僕が見つけた穴熊のようなヤツ、彼は後姿が実にユーモラスで体のわりにグラマーなお尻をふりふり逃げるので僕もムキになり追っかけっこした。
 大物の熊公のなき声はさすがに迫力がある。一本立てていたすぐそばで鳴いたもんで全く興ざめした。その他にタヌキの夫婦などなどこの山行の感想を一言にしていえば、「未開な自然の宝庫」と言い切れるだろう。
 動物の自然のままの貴重な生息地のこのルート、やはり南部だという実感が湧くとともにこんな未開地を縦走することは現代的な便利すぎる登山感覚は通用しないとも言える。事実、ルートに迷った人が数日間彷徨った例が沢山あるように不測の事態がいくらでもあり得る。一日の行動のほとんどが背よりも高い熊笹の中での藪漕ぎは思ったより疲れるし、また先が見えないので倒木に乗っかっていちいち行く先を考えるので気が滅入るし、おまけに尾根が広過ぎる。ガスってくると磁石を使っても不安になる。雨なんぞ降ってくると涙が出るよホント。自分の足元も見えないので小さい倒木に何度も足を取られ転ぶこと一日平均30回。
 初日は6時間の行動で池口岳まで達することは出来なかった。池口岳の途中まで麓の遠藤さんという方が切り開いてくださった道が付いているが、その先は荒れている。遠藤さんに聞いておいた大きな白樺の木を目標にツェルトを張る。稜線から10分も下れば水が取れるそうだ。ポリタンと赤テープ(迷わないために)を片手に稜線から左手の藪の陰を下るが20分下っても一向に水の気配がない。元の稜線に上がるにはその倍の時間がかかる。仕方なく諦め今度は稜線より右手の急なガレ場沿いに下ってみたがこれも無駄足だった。2時間も水を探しての登降でもうくたくた。その夜は水を使わないために行動用のパンなどで食事し「こんなこともあるさ」とふて寝する。次の朝は早目に出発する。日が当たらないうちに行けるところまで行っといた方が汗をかかなくて済む。飲水はコップ一杯分しかない。夜露の溜まった木の葉を舐めてみる。結構水分の補給になる。朝8時過ぎ、やっと池口岳の北峰に着く。ここからは光岳を始め、南部の山々が一望のもと、光岳はこちらから見ると頂上の下に二つの大岩がある。この岩に夕日が当たると光って見えるからその名前が付いたともいう。池口の南峰を経て笹平でやっと水を得た。

南アルプス南部の動物
川田 昭一

 日本鹿、カモシカ、熊、タヌキ、鳥類等、南アルプスの動物をこの地域に全部呼び集めたという感じが決してオーバーではない、兎に角この地域には日本を代表する動物が2/3は生息していると思う。
 この地域とは、光岳以南の山々で池口岳、鶏冠山、黒沢山を経て黒法師岳へと至る長大な山並みのことである。
 この山域に広く生息する動物は民有林よりも、より原始的な国有林地帯に多く分布しているようである。
 それは、1600m以上の国有林地帯の林道開発、新登山道の開発、木々の伐採も一切だめ、勿論赤く色づいたもみじの葉1枚むしり取ってもだめという完璧に保護された山域だからこそではないだろうか?。
 動物たちは我々を見ても急には逃げない。兎に角のんびりしている。
 オコジョ君などは我々を天敵ではないと判断したのか、私達の前に姿を見せてはよたよたと前に歩き出すその体の動きが大変に滑稽だ。
 動物の宝庫であるこの山域で動物の生態観察もしてみたい。
 池口岳と鶏冠山の間に笹平という平坦地があるが、この付近は特に鹿、タヌキ、カモシカが多く集まる所のようである。
 水場も柴沢源流まで7~8分下ると得られるので笹平をベースにした動物撮影とくればかなりの成果が期待できると思う。
 動物の姿も黒沢山に近くなるにつれ、住んでいる気配は感じ取れるが、猛烈な笹藪で視界がないため見定めることができなかった。
 最後に未開の山域に入るにあたって、コースタイム、水場、幕場等、数々の情報を提供してくれた南信濃村の斎藤七郎(環境庁自然保護園指導員)さん、更に池口岳直下までの登山道開発に寄与されている遠藤さん宅におじゃまさせてもらっての登山道の詳しい説明、これら二人の方々の豊かな情報が助けとなって有意義な山旅ができたことに、深く感謝したいと思います。


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