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あまく見た山(甲斐駒)
川田 昭一

 国鉄に回遊券という流客券があった頃の話しだから古い、15年くらい前だと思います。
 この券を利用して、信越、小海、中央線という三つのルートを回り、途中、甲斐駒ヶ岳に登るプランを立て上野から夜行に乗った。
 パーティを組んでのハイクは先生に引卒されて、夏期に三回程登ったが、つれられて登る山でなく自分一人で登る山、単独山行はこれが初めてだけに不安が大きい。次の日、中央線日の春駅下車、今の靴より目方があった鋲靴での竹宇の駒ヶ岳神社まで真夏のカンカン照りの道を歩く。昼頃着くや、すぐ登り出す。1時間もしないうちに呼吸が荒くなり足が思うように上がらず、のどが渇く。途中の寝かせ丸太に横になり、水をガブガブ飲む。
 また登り始めるがすぐ決まったように、のどの渇き、足のだるさ、呼吸の乱れ、というバテの状態がくる。
 登っては休む、登っては休む。この繰返しが笹の平を過ぎてからの急登が始まる頃、バテの状態がニヶ重なってバテバテとなった。こうなると登る時間より、休んでいる時間の方が長くなった。
 バテバテの体をひきづって「蟻の刃渡り」は無事通過して間もなく、刀利天狗へのはしご登りにかかる頃には薄ぐらくなってきた。途中、休まず登っても五合目小屋までは小1時間はかかる。
 しかし、幸に夕ぐれの気温の低下と涼しい風が吹き流れ、バテバテの体に活を入れてくれたおかげで、五合目小屋に7時過ぎに入れた。次の朝、荷を小屋に置いて駒への往復だ。だが外へ出て迷った。昨夜暗くなってから、バテバテで小屋に入っているから、小屋の周りの状態が知れないのと、小屋が黒戸山と駒のピークとの鞍部にあたるため、自分がどちらから登って来て、目指す駒のピークヘはどう登りつめれば良いのかだ。
 「駒神社は右へ登る。駒ヶ岳へは左のはしごを登る」後から声がした。小屋の主人、中島さんだ。
 昨日のバテバテの体は完全でなく、空身で登って行くが、七合目を過ぎる頃からピッチが下がる。
 駒のピークに立つ頃は、やはりくたくたになるのを感じた。
 遠くに近くに、見られる山並が何んであるか知らない。なにせ、ガイドブックを取り出して調べる気力もなかった。
 ただ腰を下ろして眠りたいだけ、こうしていると楽だからだ。
 下りは慎重に下ることにして、腰を上げ、登ってきた道を下る。
 黒戸山の「蟻の刃渡り」を過ぎた頃からのすごい急坂に、改めてびっくりする。
 竹宇ノ白須と山麓の村まで下り、振り返り聳えている駒の主峰見上げて、自分の心に言いきかせた。
 「今度くる時は、おまえ(駒ヶ岳)をやっつけ、さらに、おまえ達の仲間(南アルプス全山)全部をやっつけるだけの、体力、スタミナ、地域研究を、十分身につけてくるから」と。


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