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春山合宿 訓練班
別所 進三郎
山行日 1975年5月2日~5日
メンバー (L)別所(進)、別所(由)、山本、春原、木村、矢作

プロローグ
 冬山はテントに閉じ籠りで背骨が曲がったきり、ジトジトそして寒い、夏山のカンカン照りの縦走路と一本立てるとムッとした息苦しい暑さ。それに引き替え春山は腕まくりして沢筋でスキーの練習、春の日差しの中でのグリセード、ブッシュを覆っている歩き易い雪面の登降。雪融けの道の山菜採り、そして天ぷら、雪上の天幕で賑やかな酒宴、団欒、歌声があるのです。芝倉沢での定着合宿ということは、誰でもいつでも入山可能、スキー、雪渓訓練、縦走、岩、周辺ブラブラ歩き、酒浸り、日光浴と好きなことができるのです。そして若芽の萌える緑を目から、不如帰の歌を耳から、ふきのとうの味を舌から、雪渓を渡り来る風を肌から、全身で春がそこに来ていることを、自分が自然の中にいることの喜びを知ることができるのです。

行動記録
 5月2日、土砂崩れで水上駅止まりになった列車から降りると、丁度小島さんの車も着いたところで、早速新道の出合までピストンしてもらう。20人以上の参加が予定される大合宿になるので、共同装備と食糧を初日入山者8名で一度にB.Cまで運び込めるかどうか懸案だったが、ヘラクレス桜井とバランス多部田の奮闘で一回で済み、無事例年より雪の多い芝倉沢出合にB.Cを設立することができた。
 訓練班1日目、一休みして小島、多部田スキー特訓班と同行して訓練班も芝倉沢の雪渓を詰めることにする。訓練対象新人は久保さんと小杉さん、途中の斜面でキックステップ、滑落停止の練習をする。夜行の疲れと芝倉沢最後の稜線への突き上げの急傾斜の登降が問題だったが(前に別な場所で新人を下ろすのにえらい難儀をしたと先輩の話を聞いていたので)、今日の調子なら大丈夫と判断して大休止の後、沢を詰める。擂鉢の底から稜線を仰ぎ見る所で、会でさんざん使用した30mザイルを3本に切り、3パーティに分けコンテニュアスで稜線まで登る。途中5人ぐらいの2組のパーティと行き交う。天気は上々、縦走班が歩いている巻機も見えるし、昨年の春山合宿の苗場も見える。そして下りのグリセードが楽しみである。稜線からの下りはいきなり急斜面で下が見えない、ちょっと怖気の付いた人もいるのでスタカットで下ることに、久保さんには菅谷君、小杉さんには桜井君にパーティを組んでもらい慎重に下降を開始する。3ピッチ、4ピッチと下って行くうちに慣れて歩き方がしっかりしてくる。怖さを克服して自信がついていくのが顔に表れている。さて今度は楽しむ番だ、シリセードとグリセードで一気にスキー班が昼寝している所まで下りてしまう。4時B.C着、夜行にもめげずよく頑張りました。菅谷君は久し振りの入山である。日頃の心掛けが良いのか合宿を通して晴れたのはこの日だけだった。
 訓練班、2、3日目、朝日岳への一泊山行
 昨夜からの雨が降ったり止んだりなのだが、結局は行こうということになって、合宿初めて雪山初めて、装備も真新しい矢作、木村君と桜井君の装備を全部借用の義チャンと、別所(進)(由)のメンバーでB.Cを後にする。播磨、モンチャン、春原さんに、大倉尾根に突き上げている雪渓まで見送りを受ける。10mくらいの雪渓は途中から広がり笠ヶ岳上部まで続いているが、大倉尾根の支稜に取付くことにして雪渓をトラバースする。トラバースが終わった時、雪渓上部から1個のブロックが音もなく落ちてきた。続いてブロック雪崩である。逃げろという声と共に5、6m左に寄り安全圏に入り、ブロックの見物をする。最後には牛のような形の大ブロックがゆっくり滑り落ちていった。大倉尾根に出て一本取る頃には雨も降り出してきた。11時33分のトランシーバー通信で縦走班との連絡が取れ、朝日岳のジャンクションピークに幕営し訓練班を待つとの連絡を受ける。トランシーバーは他の強力な無線が入ってなかなか良く聞き取れなかったが、柴田君が二度ずつはっきり言ってくれたので縦走隊の位置が判った。笠ヶ岳頂上からは稜線に叩きつける風雨をまともに受け全身ビッショリとなる。昨日の夜行で来た矢作、木村君の疲労が目に見える。だが頑張ってもらうより他どうしようもないm朝日の手間では矢作君に「しんどくて歩けません」と言われる。その場でカマ天を張ることも考えるが、小休止して甘い物を食べてもらい、騙し騙し朝日岳を越す。朝日ヶ原から45分で色褪せた懐かしい天幕を発見、モートーの声を聞く。泥靴のまま天幕に入り紅茶をもらう、夜食は縦走班は素早くボンカレー、訓練班は時間をたっぷりかけてシチューであった。濡れているものを片っ端から身に着けて2~3人用天幕に5人眠る。新人2人はぐっすり眠れたというから頼もしい。
 5月4日、昨日あんな苦しい思いをした両君のためにも晴天であるよう祈ったが、またも雨の中の行軍になる。この日の記録は縦走班と重複になるので訓練したことだけ記す。蓬峠からはキックステップ、滑落停止、グリセードと順次練習しながら下った。B.C4時着。
 5月5日、晴れ。連休最後の日の交通渋滞を考慮して早目に帰る野田さん達を送り出して遭難救助訓練を行う。芝橇による負傷者運搬、遺体捜索のためブロックの切り出し、そして一人用イグルーの作成をする。

エピローグ
 B.Cを去る日、天幕をたたむと雪床が30cm以上上がっていて誰かが将棋駒にたとえて玉の字を入れた。土合までの道は雪が大分溶けてイタドリ、フキノトウを採りながら歩いた。山桜が対岸に咲いていた。
 春山合宿に初めて入った人はどんな印象を受けたであろう、雪渓には常にブロック雪崩があることや、急斜面の登降は怖気さえなくなれば夏道より楽しく楽であるということ。いくら雨具を着ていてもブッシュを漕げばパンツまで濡れてしまうこと。稜線の風は強いということ。グリセードは少々なら良いが長いと膝にガタがくるし、キスリングなんか背負ってやると派手に飛ばされることもあり、地味にステップ切って歩いた方が無難であるということ。綿のシャツは濡れると乾かず冷たい思いをするということ。今回背負って行った装備で、使用しなかったものは何と何であるかということ。20人以上分の共同装備と食糧を何とかしなくてはいけないということと、車を使って入山する手間が必要ということ。
 たとえそれが1日だけでも合宿に入ったという事実など色々挙げられることだろう。合宿に参加して行動したことが少しでも次のステップへの道標になっただろうか。


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