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雲取山
梶 泰治

山行日 1975年3月8日~9日
メンバー (L)春原、梶

 春....それは登山者にとって待ち焦がれた季節である。長く厳しい寒気からようやく解放される日だ。もう重荷に喘ぎながらラッセルした日も過去のものとなったのだ、そして純白の世界も....。
 替りに眩しい春の到来である。日差しは夏を思わせるほど強く、そしてどこまでも澄んだ空、その空に冬の厳しさはもうない、暖かな空である。登りに一汗かいた後、柔らかな陽を体一杯に受けて休もう。丁度、フキノトウが日差しを一杯吸い込んでどんどん育つように....。もう休んでも寒くないのだから。
 山の春は"雪の足音"から始まる、それは突然何の予告もなく始まり、登山者を驚かす。正体は残雪が固まって斜面を転がる時の音である、あたかも春が歩いているような錯覚を与える、日中数え切れないほど聞いたのである。
 一杯水までは実に良い道で奥多摩らしく指導標も良く整備されている。大した上り下りもなくここに到着、一杯水とは名ばかりなので注意。
 ここから道は急に細くなり、笹漕ぎとなる。道はしっかりしていて迷うことはないが展望はない。途中一ヶ所だけ見晴らしの良い花戸岩があり、日原方面が望まれる。残雪は15cmほどであるが、踏まれていないので夏時間の倍近くかかってようやく酉谷小屋着、しっかりした良い小屋である。いつかの秋、来たままなので懐かしい。
 まだいくらも進んでいないのでもう少し前進する。相変わらず笹薮だ。小屋から30分ほどの稜線に幕営に良い平らな場所を見つけたので雪を固めてツェルトを張る。夕食ボンカレー、星のきれいな夜である。ところが、こんな人里離れた深山で、しかもペラペラのツェルトで寝るなんているのは私にとって初めてなので、笹が風に鳴っても、すわ熊かなどと大げさに考えて寝られたものじゃない。それに引き換え隣人は実に落ち着いたもので何が起こってもスヤスヤ。さすが年季の入った人は違うとただただ呆れるばかり。
 ここからは急に雪が深くなり、時には腿ぐらいのラッセルとなる。しかし、稜線の世界は素晴らしい、純白の雪と青い空と笹の緑と....。吹く風も暖かである。こんな稜線歩きは実に楽しい、しかし気持ちとは別に足は遅々として進まず、2時間も歩いてようやく滝谷の峰に着く。
 天目山の分岐から急に深雪となる。なあんとまあ有り難い、誰かがラッセルしてくれたと思ったのも束の間、最初のピークまででそこからは胸まで潜る雪である。ピッケルもワカンもないので雪にはまったらニッチもサッチもいかない。雲取はおろか長沢山も行けそうにない、やむなく天目山から下ることにする。
 今回の予定。1日目、長沢山。2日目、雲取山より石尾根。1日目の予定点までも行けなかったが、一生懸命頑張って全然ダメだったというのも変な充実感があって面白い。


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