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赤岳沢事故報告
桜井 且久

(日時) 6月10日
(場所) 八ヶ岳、川俣川東沢支流赤岳沢、通称・四段ノ滝最上部
(経過報告) 6月9日、約1ヶ月振りの山行のため勇躍として新宿駅に乗り込む。昨年、6月の雨飾山で思わぬ残雪に苦労したことが頭にあってピッケル持参で行くも、多部田君の説得にあいホームで彼に渡す。メンバーは二人でやはり真木君に同行願い夜の新宿を後にする。翌朝、清里駅よりタクシーに飛び乗り川俣川の河原間近まで入り込め、アプローチをかなり省略できた。ここから出合小屋までは更に2時間河原歩きが続いたが、先ずは快調なペースで出合到着と相成った。ここでは今夜の宿は楽にキレット周辺に設営可能と余裕を持って残飯を片付ける。1時間ばかりは靴のまま進むが、そろそろ小滝が連続し始めた故、わらじに履き替える。思った通り残雪が豊富でピッケルを東京に置いてきたのが若干悔やまれた。何となく沢登りというより雪渓登りという感じになってきたところで大きな滝が姿を現す。それこそが問題の「四段ノ滝」最上部のものと思われた。直登ルートは途中に残置ハーケンが見つけられたが、水際を割合あっさり登れるものと判断する。ここで不用意にもノーザイルで真木君トップで進むが途中で行き詰まってしまった。それでは俺が登ってやるぞとルートを若干右に変更しトラバース気味に調子に乗って高度上げる。しかしながら、上部は雪融け後の極めて脆い岩場となり、かなり大きな岩が私と真木君の間でぐらついてヒヤリとする。そのため慎重に手で岩を叩きながら登るが詰め間際で頼りとなる大きなホールドに力を入れた途端、十数メートル転落と相成った次第です。空中滑降の数秒はやけに長く感じ、悪運強い私も今度ばかりはダメと観念したのを妙にはっきりと記憶しています。幸いにも落下直後は一時的に気絶していたがすぐに無事であることを確認し真木君の大きなコールに大声で返答する。どうやら一度残雪にぶつかって雪が崩れながら滝壺間近の岩場に落ちたらしく、雪の上に登ろうとするが体が言うことを利かず途方に暮れてしまった。するとスルスルと赤ザイルが下りてきて真木君の懐かしい顔が見えてホッと一息というところだ。この後、残雪の上に仮宿をこしらえて2時間くらいぐっすりと眠り込む。お陰さまでどうにか気を取り直して自力で出合小屋まで辿り着く。
 一夜明けて割合足の調子も良さそうなので軽い捻挫くらいだろうと杖を突きながら元気よく河原を下る。右へ左へと渡渉を繰り返すうちに痛みが段々と激しくなる。どうしても他人に迷惑はかけたくなかったため必死で我慢すれども、後ちょっとという目安がつきかけた所で遂にダウン。ここからは全く情けないことに真木君の方に手をかけておんぶの形となってしまう(この時、真木君の何と頼もしく思えたことか!!)。
(反省) この結果、数箇所に受けた擦り傷等は若干傷みがあるだけで大したことはなかったが、足首の周辺はやはり2本ばかり骨にひびが入っている、このことで全治3ヶ月と診断される。今まで数回転落は経験があるもののいずれも軽傷で済んでおり、今回始めて仕事を1週間くらい休んでしまった。その後も約2ヶ月間は通院しながら元の仕事に就くことができず、大勢の人に迷惑をかけてしまった。登山は第三者から見れば単なる道楽に過ぎず、その道楽で責任ある社会人ともあろうものが2ヶ月間も支障をきたしたということは弁解の余地がなく、その面からも深く反省させられました。そしてまた、一登山者の行動としてみても若干反省すべき点があるようで、今後のためにも気付いた点を列記しておきます。
(1)先ず、岩場でのルートファインディングの未熟さが挙げられます。今回の場合、一般的には滝を高巻きすることになっていますが、無造作に滝を直登し行き詰まると、雪融け後の極めて脆いガレ場に入り込んでしまった。途中、あまりの岩の脆さに慎重になったものの、やはりこういったガレ場は避けて当たり前であろう。
(2)次に、ザイル操作の未熟が根本的に事故の原因であると思われます。即ち、滝の直登を無造作にノーザイルで進めたことによって、行き詰まった際に直登ルートを避けてしまった。この場合はむしろスッキリした直登ルートをザイルで確保しながら、ハーケンの1本も打ち込めば難なく通過できたと思われます。何故ザイルを使わなかったかと言えば単純に面倒だったということになりますが、この点にはっきりとザイルワークの習熟に難点があったということであろう。
(3)最後に、ちょっとした岩場でも必ずヘルメットの着用を義務付ける必要があろう。今度の場合も転落した際には記憶がなかったが、ヘルメットにかなり大きな傷が付いておりました。これなどはヘルメットがなかったら頭に必ず怪我を負っていたことでしょう。
 以上、気付いた点を乱雑に書き記しましたが、大自然の前に挑戦しようという岳人は私も含めて尽きることのないことと思われますが、事前に防ぐことのできるようなつまらない原因で遭難することだけは防ぎたいと思いますので、自戒も込めて記させてもらいました。尚、今年の冬山合宿を槍ヶ岳周辺で行う際にも充分すぎるくらい4人で検討してみるつもりです。装備の改良が目覚ましい昨今、冬山にも安易な気持ちで入山してしまう傾向は否めない事実です。しかし大切なことは山は昔も今も変わらないということです。いくら正月前後に沢山の人が山に入っても、今も変わらない自然界は年末や正月などとは関係なく動いているから雪の方も一休みという訳にはいかないということを再度確認しておく必要があるであろう。


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