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万太郎山
播磨 忠志

山行日 1975年11月23日~24日
メンバー (L)多部田、別所、稲田(竹)、稲田(由)、真木、播磨、甲斐、久山

 11月20日、この日は飯田橋でのルームの最後の日であった。私は折悪しく仕事のため出席できず、例によってルーム後の会食に直接顔を出させてもらった。飯田橋でのルームではここ何年も思い出が沢山残っており、この日が最後だと思うとつい宴にも興がのってしまい大変に気が大きくなってしまった。そこへ多部田君より今回の例会の誘いがあったので行こうか行くまいか迷っていた。何しろ11月末の谷川岳である、近頃大きな山行から遠ざかっている私にとっては少々考えさせられた。しかし、彼は「播磨さんは30過ぎですから個人装備だけでいいですよ」との言葉に渡り舟とばかり山行への出席をOKした。
 11月23日(雨のちガス)
 今頃の季節には珍しく土樽周辺には一欠けらの雪もなかった。係の言葉によると駅より歩いて3時間ぐらいの所へBCを設営して、そこより頂上アタックや適当な場所を探しての雪上訓練を行うと聞いていたのだが、登れども登れども雪が現れずその計画は断念せざるを得なかった。その前に今回のコースを説明すると、要するに吾策新道によって万太郎山往復ということであるが、計画した時はこんなに雪がないとは思わなかったであろう。結局、テントが張れたのは万太郎山頂であった。この日の気圧配置は前日に深い気圧の谷が通過して日本全国に雨を降らせ、それが東の海上へ抜け大陸からこの冬一番と言われる高気圧が張り出してくると思われた、そしてなお悪いことに南の海上には季節外れの台風20号が北上していた。この台風は上陸することはないと思われたが、南海上を通過して東へ抜ければ先の気圧の谷と相まって極端な冬型になることは間違いないと思われた。
 しかし、今朝からの天気はあまりかんばしくないにしろ、ガスこそ深いが吹雪かれる訳でもなし、それほど気に留める悪天ではなかった。本日帰京する別所と稲田夫人を見送った後、我々は少々風が強くなり始めたので万太郎山頂の三角点の脇に8人用のカマ天を張った。後で考えるとこの幕営地は大変に賢明だったと思われる、それはこの地点が他の地点より風当たりが弱かったからだ。
 夕方天気図をとってみると案の定明日は大変に荒れる可能性があった、段々と強くなり始めた風に気を取られながら寝床についた。
 11月24日(吹雪)
 夜中テントのきしむ音で目を覚ます。時計を見るとまだ午前2時だ、果たしてこの風の中で撤収ができるだろうか?グラスファイバーのポールが原型が崩れて折れてしまわないかと思われるほどにしなる。取り敢えず明るくなるまで待つことにする。
 6時に寝袋より這い出る、朝食の後取り敢えず下山と決め、冬山が初めての久山君に色々と注意をしてテントの撤収にかかる。思ったほどのこともなく無事に撤収を完了し、山頂を9時に出発。ところが山頂を一歩出た途端北西の風が我々を尾根からもぎ取らんとばかり吹きつける、山頂はそれ程の風の通り道ではなかったので、我々のテントも事なきを得たのではないかと思われた。
 風が北側から吹くので自然と尾根の南側を絡むようになる、そこで我々は大変なミスをしてしまった。前日来た道をそのまま下山すれば良いと思っていたので、ろくに地図を見ることもなく山頂より前日登ってきた道を戻ったつもりだったのだが、どうも前日と様子が違うようだ。何しろ顔を上げて目を開けていられないくらいの猛地吹雪なので、前進をするのが精一杯という感じなのだ。周りを見回すこともなかなか容易なことではなく、勿論見廻しても何も見える訳でもない。我々が道を間違えたと判ったのは、万太郎山を下り切ってそろそろ大障子の頭へ登り返す頃であった。幸いにも前方からの登山者によって我々が谷川岳の方向へ歩いていることを知らされた、我が身を疑ったくらいである。即ち我々は山頂より前日の道を下山したのであるが、山頂より100mぐらいの所で国境稜線と吾策新道が分かれているのを知らず(前日来た時も誰も気が付かなかった。しかし、地図を見れば一目瞭然、全く初歩的なミス)風に押されて稜線の南側を絡むことによって自然と谷川岳の方へ向かって歩いて行ってしまった。
 もし、稜線上に登山者もなく、もう少し発見が遅れたらどうなっていたか私にも判らない、パーティには冬山が初めての久山君もいたし、天気も極端に悪いし、ただその時の気温が案外寒くなかったので約2時間のロスも思ったより体力の消耗に繋がらなかったと思う。万太郎へ登り返し、吾策新道へ無事入ることが出来た時は本心から私も本当に安心した。
 土樽へ下山するパーティ皆の脳中はどんなだったか私には判りませんが、どんな些細なミスでも冬山では大きな事故に繋がる可能性があるということが私にも、皆にも身をもって理解できたと思う。地図を見るという山では一番初歩的なことを怠ったために起きたミスを今後二度と起こすことのないように、この山行を今後の糧として前進していきたいと思うのは私だけであろうか。


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