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鳳凰三山縦走
下司 真知子

山行日 1976年8月21日~23日
メンバー (L)柴田、下司

 三峰山岳会の精鋭により北鎌尾根(北アルプス)より西穂高への大縦走が成されんとする折、体力、技術ともに未熟な私と柴田さんとは個人山行を計画した。しかも、いつも連れて行ってもらう者同士故にどうなることやら....心配は尽きない。数日前よりどこに登ろうかと散々考えあぐねた末、地蔵岳のオベリクスに惹かれ鳳凰三山と決定。次にはどのコースを取るか、食事は、装備は、と上司の目を盗みつつ計画は練られていった。そして一応、この山行の目的は基礎体力作りと縦走の楽しみを味わうこととする。
 8月20日、9時20分。集合時間より10分も早く新宿に着く。ホームで北鎌を目指す桜井さん達に出逢い、少々興奮して成功を祈る。何とも羨ましい限りだ。電車を見送った後、11時55分発、長野行きに乗り込む。
 穴山駅には定刻の3時43分到着。まだ暗い、しっとりした空気の穴山駅で睡眠不足の二人がボォーとしていると向こうの方でガラガラと女の声がする。何事かと覗き込むとおばさんがゴミ箱の上に紙を広げて、御座石鉱泉までのマイクロバスの代金と鳳凰小屋の前金を予約順に徴収しているのでした。この光景に二人共唖然としてひょっとすると予約してなかったから泊めてもらえないのでは....と心細くなる。そのおばさんのやけに張りのある声といい、慣れたやり方といい不愉快極まりない。せっかく煩雑な都会生活から遠ざかり、美しい自然に酔いしれ、純朴な人間に触れたいと半分うっとりして降り立った駅でのこの有様に妙に冷え冷えと白けてきて悲しくなってしまう。
 マイクロバスの料金は1,400円。鳳凰小屋宿泊料金(2食付き)は2,500円也。
 しかし、星が綺麗なので何とか登れそうだ。約1時間、バスに揺られる。
 6時45分、ポリタンをいっぱいにして御座石鉱泉を出発。最初から急な登りが待ち受けていた。リーダーに出発を余儀なくされることもないので、だらしなく休んでしまう。一度目の休憩は30分の仮眠。二度目なんぞは1時間近くもぐっすり眠り込んでしまった。この二度の休憩を見たパーティに「さっきは朝寝に、今度は昼寝ですか」と冷やかされる。思いの外登りは長く、喉をヒィヒィ鳴らしていると右手の木の間より八ヶ岳が見え、俄然張り切る。
 鳳凰小屋到着は2時15分。ザックを下ろして地蔵岳までピストンするのに充分すぎるくらい時間があったが、例によって寝太郎の二人はシュラフの中に入ってネムネム。
 翌日は素晴らしい快晴に恵まれる。6時30分、鳳凰小屋出発。しばらくシラベの林の急登がありそれを登り切ると白い砂地の急斜面。足が砂に取られてオベリスクを目前にしながら、なかなか辿り着けない。しかし、ダケカンバの濃い緑、花崗岩の白い色、限りなく原色に近い空の青が印象的だ。さーて、ようやくオベリスクだ!すぐ前には甲斐駒ヶ岳が気高く聳え立つ。何と言ったら良いのか空が青い。実に青い。ザックを残して早速岩に取り付き、少し広いテラスまで登る。すると....富士山!裾野までくっきり、はっきり見える。「あぁー、来て良かった」と二人、感涙に咽び泣く(とまではいかないが)。ここでは写真を撮ったりチムニー状の岩に登ったりして遊ぶ。それでも時間はすぐに経ち、振り返り振り返り、観音岳、薬師岳へ向けて出発。この縦走では右手間近に白峰三山がでんと連なり、私達を見守ってくれていた。薬師を過ぎた所で昼食を摂ると後は南御室小屋、苺平、杖立峠へとひたすら下って行く。あんなに青かった空もこの頃になると白くガスが出始めてきた。峠下のバス停到着が3時過ぎ。甲府を5時35分の電車に乗り込むと新宿へは7時42分に着いた。


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