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下りの途中で
別所 進三郎

 どうしてこんなに急いで下るんだろう
 登りで苦しい時、
 下りになれば
 楽になると、
 言い聞かせていたじゃないか

 山登りは最高の贅沢だと自賛していて
 一月も山にいかないと
 うじうじしちゃって
 都会生活の粗に対応させて
 山での生活を思い浮かべたりして
 今度、山に入る時は
 許せる限り山に居たい
 できれば山中で寝起きしたい
 道のないとこ歩いてみたいと、突き詰めるほど
 思っていたじゃないか

 大汗をかいたけど
 登りでは山の景色、鳥の声
 澄み切った空気も意識して味わった
 山頂ではゆっくり休んで食事もし
 夜行日帰り山行だからと腰を上げるが
 もう帰るのかと
 後ろ髪を引かれる気持だったじゃないか
 それがどうだいこの下り
 バス停の時刻表なんか、わざと知らないのに
 一足違いで乗り遅れた

 過去の経験があるからか
 追われているように駆け下る
 登りと同じペースで下れば
 紅葉や秋の木の実や秋空を
 じっくり味わえることを知っていながら
 バスの一、二台見送ったって
 そんな大したことにゃならないのに
 おまけに日頃思っている
 「都会地獄」が恋しいように
 登りよりも苦しみながら
 膝をガクガクいわせて
 どうしてこんなに急いで下るんだろう


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