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沢合宿 ヒツゴー沢
関 裕子

山行日 1977年9月23日~24日
メンバー (L)久山、鈴木(隆)、関

 9月23日、時に薄日の差す曇り空。眠り足りない三人。二股ベースを9時半に出発。メンバーは久山さん、隆さんと足元の怪しい私。中ゴー尾根を左に見送りヒツゴー沢に入る。初めての沢登りの経験をしたのが先月のことで、今回の谷川沢合宿が二度目である。丹沢の薄暗さと違いこのヒツゴー沢の前方は明るく開けている。ゼルブストを付け一人前の格好をして記念撮影をする。滝はエメラルドグリーンの流れを湛え白い岩肌に縞模様を付けている。美しい、足場を確かめザイルで確保されながら一つまた一つと滝を越える。滝の連続で登る方も疲れるがザイルを確保する方も重さに耐えかねてか小休止、大小の滝は続く。足がすくむのは深そうな滝壺を見下ろしながらのへつりの時である。右足と左足は交差し身動きが取れない。無事にやっとの思いで通過すると目の前には水量豊かな二段の滝が現れる。一段目は何とか登り二段目は水を浴び息をこらして挑戦する。足場を探すが見当たらない。ザイルで確保はされている。「思い切って!フリクションだ!」判っていてもダメ。身体が滑り落ち、ザイルにしがみつく、水をかぶる。ザイルを引っ張り上げてもらう。ここで大休止。
 沢から離れ天神尾根に向かう。滝よりも恐怖感の募る草付き場のトラバース。滑る。靴を脱ぎたい。霧が上がってくる。日はゆっくりと、しかし確実に落ちていく。前方に暗い枝沢を見る。踏み跡はしっかりしている。進む、何の不安もなく進む。突然「モートー」のコールがかかる。別所さんの声である。よく聞き取れない。また、進む、日はとっぷりと暮れる。「モートー」のコールがまたかかる。「ルートが違う。動くな。判ったか。ルートが違うぞ、判ったら返事をしろ」谷を隔てた中ゴー尾根からである。「そこを動くなビバークだ。判ったか。返事をしろ」懐電の光が谷の向こうに見える。「判ったか、気持ちの良い晩だ。俺達もビバークする。そこを動くな。判ったか。返事をしろ!」
 ビバーク、何と思いがけぬことであろうか。沢から少し離れ笹ヤブの中に寝場所を見つける。月夜である、沢伝いにガスが上がってくる。強い風が吹き抜ける。寒い、本当に寒い。体をすり寄せ暖を取る。一時の温もり。体が笹ヤブの斜面を滑り落ちる。慌てて這い上がる。朝はもうすぐ、眠ろう。「モートー」のコールで眠りから覚める。夜は明けている。パンを口に流し込み、ヤブを漕いで天神尾根に出る。登山者がいる。西黒尾根を登る人が点々と続いている。別所さん、野田さんが中ゴー尾根を動き出したのが見える。三人でモートーのコールを送る。9月24日、御前8時ヒツゴー沢の登りを終える。
 別所、野田両氏には本当にご心配をおかけしました。またザイルで確保をしてくださった隆さん、久山さんにもお礼を申し上げます。今は一も早く迷惑を掛けないメンバーに成長したいと願っております。


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