トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ233号目次

待つって辛いものね
島田 兆子

山行日 1977年8月13日~17日
メンバー (L)島田、奥住、多部田、堀内

 佐藤さんに見送られ新宿駅を出発、ここからいつものことながら小宴会。ビールを飲んでウィスキーを飲んで一眠り、誰にも言えないような夢から覚めたら小雨の松本、せっかくいい夢を見ていたのに。電車はぎゅうぎゅう詰めのため細目の乙女三人は恥ずかしながら窓から脱出を図る。北鎌尾根パーティーとはしばらくのお別れ。豊科は思っていたより人も少なくすんなりタクシーを拾う。早く行かないとタクシーは拾えないと聞いていたが、やはりうら若き乙女だとこんなにも違うものかしら....。三股に着いても雨は降り止まず、シトシトピッチャン、シトシトピッチャン....。小屋に入り朝食を摂り1時間ほど仮眠する。蝶ヶ岳までコースタイムで4時間、まあ5時間もしたら着くだろうと思っていたら長いの長いの、重荷が憎い。あーあ、ウィスキーなんて小さいのにすればよかったわ。1時頃ようやく小屋が見えてきたが足が進まない、そんな時「お姉ちゃん小屋はもう少しなんだから休んでいきな、そしたら桃あげるよ」という声が聞こえる。またしても思う「美女三人は得ね」ちゃっかり桃をご馳走になり、おまけに手袋3組いただく、聞くところによるとそのお兄さんの会社で作っているとか。蝶ヶ岳ヒュッテに着いたのは何と2時。1時間ほど休憩して蝶のピークを踏み、4時頃下山、途中槍がきれいに見える槍見台があったが天幕を張ることも考え、それに重荷のため機嫌の悪い私は休みも入れないで横尾へ急いだ。横尾へ着き天幕も張り、はい食事の用意と思ったら私と同じようにバーナーも機嫌が悪く、お茶も沸かすことができず水を飲みながらパンを齧りながら夕食とする(惨め)。
 8月14日、今日は前日の功労賞のため食事の用意もせず、皆より1時間も多く寝かせてもらう。朝食を済ませうろうろしてたら多部田さんに会う。約半年ぶりで会った多部田さん、社会人一年生になりヘアースタイルも変わり別人みたい(ちょっと褒めすぎ)。横尾を後にしてあっという間に涸沢。前日がきつかっただけにカンタンカンタン。先ず色とりどりのテントを見渡す、これが涸沢か....。日も沈みかけ星が輝き、テントに一つ一つ灯りが灯り一層涸沢らしさを増していく、新宿のネオンよりもきれいな灯り、豊島園よりきれいな花火。あー、これが涸沢なんだ(ちとオーバー)。
 8月15日、今日は皆と会える日、早目に北穂に行って待っていよう、12時には着くというから。ところが1時になっても2時になっても三峰野獣派は姿を見せず、何かあったのだろうか?どじな誰かがチムニーで落ちたのでは、年の順に色々な人の顔が目に浮かぶ。多部田さんが私達より遅れて帰ってくる。報告によるとキレットまで行ったが誰もいなかったとのこと、不安は募る。
 8月16日、「どこかに行こうか」「やっぱり待っていよう」皆の意見が一致。知らず知らずのうちに山ばかりを見ている、5人組を見つけると期待をしてしまう。「あーやっぱり違った」ふと考える、「女性というものは待つことが多すぎるわ、プロポーズを待って、夫の帰りを待って、子供がお腹から出るのを10ヶ月も待ってetc、損なものね」多部田さんは待ちきれず東稜に向かう、また繰り返し山を見る、もう何時間経ったんだろう。「モートー」が聞こえる。「気のせいだわ」でもまた聞こえる。私達もモートーと叫びたいが叫んだことがないため恥ずかしくて声にならない。あー来た来た、やっぱり野獣派だ。
 待つことの辛さをしみじみ感じさせられた山行、でもいい思い出になりました。やっぱり仲間っていいなあ。

夏山合宿を終えて
奥住 かずみ

 三峰に入って初めての合宿。そして私にとってこれまた初めての北アルプス。以前、南を歩いている時、遠くに見える峰々を見ながら私もいつかは北にと思っていたのが、はからずも実現したのです。穂高を歩けるなんて、そう思うと嬉しくて内心「やるぞ」という思いで12日の夜を迎え、いざ豊科に向けて出発。しかし不安は隠しきれないもの。果たして私の肩と背中が荷物を支えてくれるのだろうか「まあいいや、やるしかない」そんな結論に達した次第であります。豊科に着き女性三人タクシーに乗り込み三股へ。着くなり睡魔が襲い揃ってスウスウ、そのうち雨もシトシト。イヤな感じです。それでも気分新たに歩を進めなかなかのペースではなかったでしょうか。よく食べそして歩き、決して遊んだつもりはないのに蝶ヶ岳は意外に遠く三人とも少々飽き気味。ヒュッテが目の前に現れたかと思いきやそう近くはない模様、「あーあ」脱力感。そんな所で行きずりの人に桃をいただき、途端に元気は何倍かに急上昇。我ながら単純そのものだと思うのです。やっと着いたヒュッテでは喉を潤す程度にして頂へと急ぐ。何と気持ち良いことでしょう、広々として槍は気持ちよさそうに空に立ち気分壮快です。まして頂上へは空身でのピストン。文句のあるはずがないのです。しかし下りでは足はガクガク....。横尾での夜は三人ともグッスリ。そして翌日はいよいよ涸沢。天気は上々。青い空。「広いなー」と第一声。「きれいだ」とカラフルなテントを前にしての二声です。確かにマンモステント場、でもそれだけではなく他とは別の雰囲気がそこにはあるのではないかしらん、大いに魅せられました。
 今回の合宿、思えば北鎌組の熊騒動あり。あっという間の5日間だったような気がします。それにしても人騒がせな熊です。しかし、人間が熊の領分を侵したために居場所がなくなり食べ物を求めて、なんて考えたりすると熊ばかりを責められない。そんな気もしてしまいます。でもとにかく皆無事で何よりでした。一時は誰にも会えないのではないかと考えたことも....。ああいう時には必要以上に事を悪い方、悪い方へと運んでしまうものですね、再確認です。後を振り返るに残念なことは穂高で展望がなく残念でした。まだまだ帰りたくないのにその日が来てしまったこと。「よし来年もまた来よう」そんな思いを抱いての下山でした。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ233号目次